スパンコール
「…痛かったか」

 ブチャラティの大きな手のひらが、頭上にすべる。
 気怠いようで、どこか心地のよい痺れを、触れられた部分に感じた。

「平気。すごく良かった」

 結局、私たちは、車内でのセックスから、ホテルに移動して、そこでもまた行為に及んだ。
 いい大人が嫉妬に狂うなんて恥ずかしいもんだ、とブチャラティは言ったけれど、私は、そんな彼の欲が愛しかった。ふだん冷静な彼の、激情に燃える姿にひどく興奮した。

 シーツにくるまったまま、ブチャラティの胸に頬をすり寄せる。当然のように髪を撫で、梳いてみせる優しい指先。
 この幸福は私のものではない。肉体だけの関係を求めたのは私の方なのに、今はそれがもどかしい。なんとも自分勝手な話である。

 小さく身動ぎをすると、二人ぶんの体温であたたまったシーツが、素肌をくすぐる。
 そんな柔らかい布地の下で、不意にブチャラティが腹部のあたりをくすぐってくる。
「…ちょっと…」
 逃げるように顔を上げれば、こちらを見ていたブチャラティが、くすっと目を細め、笑う。まるで子どものような無邪気な顔で。

「ここ、弱いのか」

 確信めいた口調で、逃げる私の腰をやわく刺激する。

「やッ、ん」
「感じてるみたいな声を出すンだな」

 あばら骨にそって、なぞるように。かわいた指先が、愛撫にも満たない優しさをもって、ゆるやかに下降していく。

「…っもう、ブチャラティ…っ」

 仕返しにと彼の脇腹をくすぐってみるが、ふっ、と柔らかい笑みを返されるだけで、まるで効果がないのだった。
 それどころか両の手首を押さえ付けられ、気がつけば私はまた組み敷かれていた。
 視線が交わり、互いの動きが止まる。まるで、付近の空気が静止したような錯覚に陥る。時計の針の音が聞こえる。

「…まだ、するの…?」
「嫌か?」

 聞いておきながら、むしろ許さないというようなキスを、彼はする。
「ユウリ」喉仏がこくりと上下に動く。すごくセクシー。たまらない。
 さらりと流れる、丁寧に切り揃えられた黒髪に手を差し入れると、ブチャラティは、む、とくすぐったそうに目を顰めた。
 もしやと思い、耳のあたりを指でなぞる。

「ッ」

 覆いかぶさった身体が、びく、と震える。
 私は顔が笑うのをこらえきれなかった。

「ここ、弱いんだ」
「うるさい」

 どちらともなく、じゃれ合うようにキスをして、今度はブチャラティが、くすぐるのではなく厭らしい手つきでふれてくる。
「…あッ」
 そして小さく喘いで、彼の愛撫に応えてあげてそれでお終い。




2012.11.28
一周年フリリク/ブチャラティとの事後でリクエストしてくださったクロイ様へ
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