こいぬだった
 ぼくの名前はジョルノ。ついこのまえ、そう名づけられました。
 いま、ぼくの体じゅうには、包帯がまかれています。それから体のあちこちがいたいです。ぼくは、このあいだの雨の日、ペットショップから脱走して、くるまにはねられたのです。
 つめたい雨の中、どうろにころがるぼくを、みちゆく人々は見て見ぬふりをしていました。ぼくはそれがかなしかった。
 とてもいたいのに。とてもくるしいのに。だれかにたすけてほしいのに。
 そんなことを思いながら、ぼくは目をとじました。このまましんでしまうのだと思いました。いしきを失うちょくぜん、にんげんの手のひらの、あたたかいかんしょくがしたような気がしたけれど、そのときのぼくには、よくわかりませんでした。

 目がさめたとき、ぼくがいちばんさいしょに見たものは、女の人のうしろすがたでした。
(だれ?)
 ぼくが、くーん、となくと、その人はふりかえって、ぼくをなでてくれました。あたたかい手のひらでした。ぼくのしっぽがゆれているのを見て、その人がとてもうれしそうなかおをしたので、ぼくは体がいたいことも忘れて、しっぽをふりつづけました。

「辛かったね。もう大丈夫」

 やさしい声でした。その人はそう言って、ぼくのあたまをなでつづけてくれました。やさしくて、ぼくをなでる手がここちよくて、こんな人がぼくのご主人さまだったらいいのに、こんな人とずっといっしょにいられたらいいのにと、そのころただの子犬でしかなかったぼくは、そう、心から思ったのでした。




2012.09.30
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