ぬかるんだ地面に、湿った枝を突き立てて絵を描いていた。
もう2日目だ。前の世界と同じで、何もしない日々なのに退屈で重苦しい。ネットがしたい、掲示板に書き込んでチャットもしたいし、アイちゃんの動画も見たい。

アイちゃんを思い出しながら描いても、絵心のない俺の絵じゃアイちゃんは歪に笑ってる。 似てないし可愛くない。
アイちゃんはフィギュアがあるから覚えてられるけど、両親の顔はどうだろう。いつか忘れるのかな。そこまで俺は生きてられるのかな。そこまで世界に帰れないのかな。

雨はしとしとと降ったまま止まない。コールイの両親は水を売ってたらしい。それが雨だから水売りの需要がないから苛々してたらしい。コールイはまさか俺が雨男とは知らないだろうなあ。
にしてもコールイ家族には申し訳ないことをしてるようだ。

「ただいま…」

小屋から離れた場所の、この茂みのなくなった木下にいつも座る俺にコールイが顔を出して来た。その顔がいつものように明るくない。なんだか思い詰めている。俺もそんな顔をしているのだろうか。
浮かない顔に、言葉が出ない。

「お、おかえり…」
「アマネはさ…その、ええと…幸せになりたい、よね」

は?と言わなかったのを褒めてほしい。急すぎる。それに幸せになりたくない人間なんているわけがない。俺の幸せは家族のいる家でパソコンという顔の知らない相手と話し合える、アイちゃんのいる世界で過ごすことだ。

「そりゃあ、そうだよね…幸せになりたいよね、そうだ…そうだよね」

人形みたいにコクコクと頷いた俺。コールイは虚ろな表情で言い聞かせるように何度も何度も、そうだよね、と呟いている。
どうした?
沈黙が降りて、気まずくなっておろおろと話のタネを探そうと思ったけどコミュ障の俺じゃ無理らしい。
結局コールイが口を開いた。

「服って、母さんに取られた?」

取られた?
変な響きの言葉だ。

「洗って、閉まっておくって…でも、なんかあの服じゃないと居心地悪いかも…あはは」

なんとなく返してほしいなあと、それとなく伝えて見るもののコールイは目を見開いて固まってしまった。
そのうちどんどんと顔が青ざめていく。人の顔色がこんなにも変わっていくのを不思議だ、と思ってしまう。
何か悪いことが起きたみたいな真っ青なコールイにこっちまで不安になる。一体どうしたんだろう。それとも雨で身体冷えた?

「コールイ?」
「ちょっと母さんのとこ行ってくる」
「なんか…」

顔色悪いけど、と言う前にいなくなってしまう。何だろう。とても嫌なことがあったみたいな顔色して。

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