突然の雷雨から5日目。アマネが現れないと王宮が知るや否や、お触れが出た。黒髪黒瞳、白い肌の人間の情報を求む、と。
多額の金銀が払われるというそれに意地汚い人間は嘘の情報をもたらし何とか金を得ようとしていた。その情報に惑わされ、もっとも欲しい情報は1つもない。王の苛立ちは募り続ける。

天候も荒れたままだ。時折は小雨になるものの、ほぼずっと雨が降り続けあれほど求めた水も嫌になってきていた。太陽の国の、光が欲しいと嘆く声。そして雨により地盤が緩み山の一部が崩れたり、畑が荒れたりという災害ももたらされていた。
今はまだ恵みに喜ぶ声がほとんどだが、アマネの存在への疑問視、災害への不安の声が大きくなるのは目に見えている。

「まだ見つからないのか」

情報が錯綜し王宮は混乱していた。
アマネは何故いないのか、いないとどうなるのか、見つからないのか、死んでいるのか、神の怒りに触れたのか。
不安が不安を呼び寄せているのか、波紋のように疑惑の声が広がっていく。

そんなもの余に分かるわけがないだろう。
若くしてこの国を統治した美しい国王はその柳眉を寄せて、慌てるばかりの家臣を見つめていた。

「現在、全国に呼びかけています。もし匿っている人間がいればすぐ連れてくるでしょう」
「しかし現状は違う。もう5日だ。そもそもこの国に来ていない可能性があるだろう」
「あの激しい雷雨。言い伝え通りです、この国にアマネがいらっしゃったのです」

よくもまあそんな言い伝えを信じられるものだな、と言いたくなるのを堪えた。
毎年起きているならまだしも、何百年ぶりの出来事だ。どのような展開になるのかも想像つかない。

「捜索隊を出しましょう。人気のない場所に下ろされ1人ではどうしようもない状況にあるかもしれませぬ陛下!」

神なんだからどうかしろ、と思ったものの仕方なしに頷く。
アマネなしでも、崩壊した国を建て直すことが出来た。今後もそれを維持できる自信もある。本当の地獄を見て来たのだ。
天界でのうのうと生きている神とは違う。

ーーしかし、本当に異世界の民ならば手を伸ばすべきだろう。
右も左も分からない場所に放り出された可能性がある。異世界なんてものは心細いに違いない。
アマネだろうがそうでなかろうが、保護の必要性はあるだろう。

「懸賞金を引きあげろ」
「御意」

朝の会議を終え、王宮から帰る途中。
庭師の整えた美しく切り揃えられた植物が咲く庭園にも、雨はしとしとと降っている。
5日前に、生まれてはじめて見た雨だった。多くがそうだろう。
水が空から降るなんてそんな幻想的な現象は、夢物語だけの話だと思っていた。

さああ、という音は穏やかに何もかも流してくれそうなほど尊く聞こえ、カヨウは足を止めていた。傍使いたちと同じように止まる。

「見たかったものの、それほど良いものではないな」

本に描かれ書き記された雨という現象はかつてカヨウが幼かった頃見て見たいと思ったものだ。そんな願望も王位後継者争いの最中、忘れてしまった。顔に飛び散った血が、幻想ではなく現実を見ろと叫んでいた。
民の喜ぶ声、自分の忘れていた夢が叶ったというのに、カヨウは喜べないでいた。

それはアマネが見つからないことでも、自分をさりげなく責める家臣のせいでもない。

空が泣いているようだ、神が、泣いているようだと思ってしまったからだった。

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