テンイン国は太陽の国と呼ばれ、テンイン国国王はこの大陸に降り注ぐ光を放つ太陽の化身と言われている。
そのためかテンイン国は常に晴れていて、曇りはない。涼しい時期はあるが毎日輝く太陽が空に見えている。
焼けた肌がテンイン国の国民である証とさえ言われる。

しかし常に晴れであるテンイン国は、深刻な問題を抱える。
雨の降らないテンイン国は、川は消え井戸に水は残されていない。草木も育ちにくい。
海沿いの村は自分たちで水を取ってくるが大国の中心にある王都は金で水を買う。しかし金もなく海沿いのそばにない都は貧富の差が著しく現れている。
都にいる高官たちは分け隔てなく民に与えるものの毎日の飲み水ぶんしか与えられない。そして裕福な貴族たちが買い占める。

それでも国は落ち着いた方だった。ついこの間まで貧しい民に与えられる水はひとしずくもなくなったあの時よりも。

テンイン国先代国王が突然の崩御により、十を超える子供達の血みどろの戦いが始まった。後継者争いに貴族が金をかけ、王宮には数多くの王族の血が流れた。
国の統率は乱れ、兼ねてからの水問題も放置され地方の金持ちたちが買い占め、民を奴隷のように扱った。その争いは3年続き、多くの国民を減らし苦しませ、国の崩壊が見えた。
後継者争いに残ったのは当時7歳、最も幼い第12王子だった。幼くして国王になった王子は、学び鍛え、10年後、国はようやく今の状態になりそれは続いている。

太陽が翳ったと言われたテンイン国を無事、再び輝かせた国王、カヨウは賢王と讃えられている。

そんな国、テンイン国には古くからある言い伝えがある。何百年かに一度、太陽の国に雨を降らせる神の化身が現れるという。
そうなることで雨の降らない大地に恵みを注ぎ、国は栄華を誇る。
神の化身はアマネという名前で、この国にはない白い肌と黒い髪と黒い瞳を持つという。顔立ちも神々しく美しい。
そしてその神の化身は太陽の化身である国王と交わることで、その先百年は平和と幸福をもたらす。言い伝えではそうで、実際の歴史書にもそう記されている。

その現れは突然だ。言い伝えによると激しい雷雨と共に王宮のテンルイ宮に、落雷と共に現れる。

そしてテンイン国は3日前激しい雷雨に襲われた。人々は喜んだ。神の化身がやってきたと、みな袋や樽に雨を集めながら泣いて喜んだ。
しかしテンルイ宮にも王宮内のどこにも落雷はない。そして神の化身であるアマネの姿はなかった。

「腹立たしい、神の化身がなんだと言う!余はそんなものがなくともこの国を統治し鎮めた、そんなものはいらんのだ」

テンイン国、今上陛下であるカヨウは憎々しいと表情に浮かべた、
今までテンルイ宮に雷雨の日アマネが現れなかったことはない。にも関わらず、現れていない。落雷もなかった。
朗報を待ち望んだ民はひどく落胆した。

「落ち着いてくだされ陛下。いま、国中を探しておりますゆえ」
「アマネが現れなかったのは余が王として認められないからだと臣下の囁く声が聞こえた。そいつの首を落としておけ」
「いいえ陛下。陛下は国を立て直された、不可能と言われたことをやってのけたお方だ。民は知っています」

アマネが現れなかったことで、みなは口々にカヨウのことを愚王と言い始めたのだ。10年前の悪夢を忘れ、その恩を忘れて。
確かに苛烈極りない王としても名を馳せているものの、誰もが知る賢王なのだ。

「今すぐアマネを連れてこい。ここにだ。余を恥晒しにしたことを後悔させてやろう」

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