柔らかい感触に包まれて心地いい。
眼が覚めるとまた知らない部屋にいた。今までと違うのは金にものを言わせたような家具や天井。
ベッドの真上には…こういうの何て言うんだっけ…天井のついたベッド。お姫様が使うようなやつ。

「こ、こ…どこだ」

相変わらず異世界なんだ…。

確か、意識のなくなる前…そうだ、倒れたんだ。たくさんの人にじっと見られて。

「アマネ様!」

扉がいきなり開いて、女の人が入ってくる。びくりとして思わず布団を被り直す。な、なに。

「ああ…お身体大丈夫ですか…?」
「は、い…」
「この身に余る幸福です…私、スイショウと申します。お食事の準備が出来ています」

深く深く頭を下げられて、それからうっとりした目で見つめられる。こんなに、きれいな、女の人なのに…なんでこんな低姿勢なんだ…。
どうしよう、と顎の下まで引き上げた布団を抱きしめる。スイショウさんから目を逸らして、おろおろと彷徨わせる。

「食事を運びますね」

スイショウさんがパンと手を叩く。その音にすらびくっと震えてしまう。
また扉から人が入ってきて、料理を乗せた台が運ばれてくる。え、え…量が多い。ほかほかなのか湯気が出てるし、飲み物も、果物みたいなのもたくさん。すごく美味しそう。某アニメ映画顔負けの美味しそうな料理が並ぶ。

それが部屋の机に乗せられていく。

あまりの急な展開に俺は目を回すしかない。
俺はこんなに食べるの?この量?なんで持て成されてるの。

なんで?

「あ、あの」

混乱して思わず声をかけてしまった。
そしたら、スイショウさんも、料理を運んできた人たちも顔を上げて、それから膝をつく。一斉に、みんな。俺に。

敬われてる、こんなにも。俺なんかが。その光景に、ぐ、と喉が詰まる。

「これは…その、お、俺が、食べるの、ですか…?」
「…何かお気に召さないものでもございましたか?今すぐ下げますので」
「そ、そ、そんなことない、です、はい…」

もう、何も言わない方が良さそうだ。
全ての皿がテーブルいっぱいに乗せられた。美味しそう、とは思うけど食べる気にはならない。
運んできた人は仕事が終わったみたいに出て行く。残ったのはスイショウさんだけ。
俺とスイショウさんの息遣いだけが静かな部屋で響く。多分食べるのを待ってるんだろう。その空気に耐えきれなくてようやく手を伸ばす。

フォークとスプーンだった。この国に来て初めて見た。これは一緒なんだ、とホッとしてしまった。
期待してるんだと思う。この世界が異世界なのはどうしようもない事実で、夢かも、なんて思ってたけど違う。でも帰る方法はあるんじゃないかって。それを探すしかない。

そのために今は食べないといけないんだと思う。手は震えたまま、なんとか掴んだフォークでジャガイモを切って焼いたようなものを刺した。

ようやく決心のついた俺に、部屋の外が騒がしくなる音が聞こえる。何か嫌な予感がした。漠然としたものだったけど、それは自分に不幸をもたらすものなんじゃないか、と。

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