下男は、ここ立て続けに傾国に髪結いを頼まれていた。そして髪を完成させるたびに口付けをされていたのだが、最近は下男の陰茎にまで口付けをするようになった。

「あぁああ…っ」

いけない、こんなことはいけない。なのに下男の言葉に傾国は聞く耳を持たずその美しい顔を下男の股間に伏せて、何度も陰茎を愛でる。

「んっ…ふ、ぅ」
「そなたは良い反応をする。上も、下も、蕩けるような」
「ぁん…っああっ!」
「愛い奴め」

袋から竿まで舐めあげられ、内腿が快感に震える。後ろに倒れ込んで悶えると、更にきつく責められる。

「いけません…ッ」
「んむっ…ぢゅるッじゅぶっ」
「はああッ」

じゅるっじゅぷっ
卑猥な音が部屋に鳴り響く。下男は顔を真っ赤にした。
普段は触らない排泄にしか使わないその場所。なのにそこからじんわりとした熱が広がり、度々下男に襲いかかる。快感に戸惑う下男を見て傾国は機嫌良さげに微笑む。

「あっんっ…あぁああっ…!」

かくかくと震える腰は、強張ったり脱力したりを繰り返す。



乱れた衣服を直す下男は今日、傾国に話をしたいと思っていた。自分が北の髪結いに弟子入りすることを。日付は明後日、おそらく会うのは今日で最後になるだろうと考えていた。

「待っておった、久しく見ていなかったが元気そうだ」
「はい。では、失礼します」

髪に櫛を通す。一本一本が細く太さにムラがなく、痛むこともない。他の遊女の髪を触って来た下男から見て随一の髪であった。髪を結わえてる間は下男の動きを見逃さないと言わんばかりにじいっと見られていて、額に汗を浮かべながらも複雑に編んで行く。
髪一つで、その日客が続けて来てくれるか、それとも目移りするかが変わる。それほど髪は重いのだと、だからその気持ちをわすれないで髪を結ぶ。下男は、鏡の傾国と目を合わせた。

「その、お話がありまして」
「ほう。何、言うてみろ」

特に、難しいことではない。もう傾国の髪を結わえることなく、この遊郭を去るのだというそれだけだ。なのに蛇に睨まれたように口は、開かない。
そしてしばらくして、傾国から逃げるように視線を逸らした。

「実は、北の髪結いの方に弟子入りさせていただくことになりまして」
「何。…いつからだ」
「明後日にはこの遊郭を出ようかと、思って、いまして、その」
「…誰に紹介してもらった」

まるで尋問されてるようだった。身を固めて、答える。

「その、拾ってもらった方に」
「ああ。私の次の座の者か」
「それで…今まで、ありがとうございました」
「そなたは気に入っておったが残念だ。北に行っても頑張るように」

髪を編み終えたとわかると、傾国はさっさと立ち上がってしまった。ああ、怒らせてしまったのかもしれない、あの母のような遊女の話をしたから、不快に思われたのだろうか。
扉の前で傾国は立ち止まった。

「口付けはおあずけだ」

そうして傾国は消えた。
そのあと、下男は無事遊郭を出て北の髪結いと合流した。あの遊女の古い友というだけあり人がよく穏やかな人だった。学びながら、成長しているのを感じて毎日が過ぎて行く。あの遊郭にいた頃を思い出すことはあまりなかった。



「そなた、確か傾国の座につきたいと言っていたな。何も私を退けたところで傾国になるとは限らない。そなたは人より美しいが、その程度だ。到底私には及ばない。
しかしな、私はこの遊郭を出ようと考えている。もちろん辞めるのは難しいだろうから、逃げようとな、考えている。しかし少々時間が足りない。そこでそなたは時間を稼いでもらいたい。何、かの陛下はそなたを気に入っていると言っていたからな。私の部屋にそなたがいたとしても喜んで夜を供にしてくれよう。ようは、私の代わりに私としてその日を過ごしてくれ。その間私は抜け出せる。
なに、確実ではないが数少ない機会である。働き次第では陛下の愛妾にもなれるだろう。そなたならおそらく愛でてもらえるに違いない。
ん?何故かって?会いたい者がおる。口付けはおあずけにしたからな、今頃疼いているだろうか。
…まあ心配するな。そなたは愛らしい姿で陛下を待つだけ、それだけでいい」

傾国とは、王を迷わせ国を傾けた美女のことを言う。この国の傾国は、美女より美男であったが確かに傾国の名が相応しいと下男は、噂を聞いて思った。
傾国が突如消え、王が狂った。
王は1人の遊女を殺し傾国を探し出すよう命じたが間も無く臣下たちを何人か殺し、おかしくなった。王の息子であり第一後継者の長男たちが王を捕まえ、そして殺した。国は荒れ、しばらくは王都は騒がしかった。傾国、人間1人で国が死ぬところだったと報じられた。
その頃下男は、遊女から文が届かなくなり気にかけていた。必ず返事をもらえていたのに、はたと消えてしまった。何かあったのだろうかと不安がる下男に、髪結いは慰めたものの髪結いも気にしていた。
その夜、髪結いと食事をとっていた下男は扉の叩かれる音に腰を上げた。髪結いはそれなりに年がいっていて最近は下男は荷物持ちになっていた。
扉を開けると、頭から布に覆われている人が現れる。
はて、と首を傾げて見つめるとその人物は何も話さない。

「どなたです、んぅっ」

いきなり、その人に口付けをされ目を見開く下男は更に見覚えのある口付けに驚愕する。まさかいやまさか、でも傾国は逃げ出したのだから、あり得る。
驚いて声も出ない下男の目の前で、その人は、傾国は、顔を露わにした。

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