主人に連れられて、何回目かの社交パーティーに出ることになった。
つい少し前までは、こんな大きなシャンデリアの下で、煌びやかな人たちに囲まれる生活とは対の場所で生きていたというのに。春峰は家族に申し訳ないような、恋しいような気持ちになった。

「フラフラしないで付いてきなさい」
「はい…」

人目があるからか、わざわざ服の裾をくいっと引っ張って、腰を折ると耳元でそう囁いた。支配の片鱗を見せつけるような、低い声に慌てて意識を引き戻す。
そうしてパーティー会場を見回したとき、奇妙な光景を見た。壁際に背中を向ける人、その背中にしなやかな腕が巻きついている。それが、たくさん。

「え…?」
「キスするだけの友人や知り合いを作るのが最近の流行らしいですね!春峰もいるんですか?」

急に子供の、良い子のお坊ちゃんのような声を出す主人。明るく高い声。その内容がピンと来なくて困惑する。

「流行?」
「はい!テレビでも話題になっていましたよ、僕はまだいないんですけど…」

しゅん、とした声も出す演技派な主人。この流行とやらなどどうでもよくくだらないと思っている気がする。現に、声も表情も可愛い子供のようなのに目だけは冷めている。このパーティー自体面倒だと思っているようで、時間になったらさっさと抜けますよと始まる前に言われたくらいだ。

「春峰、なってくれますか?」
「はい…?」
「だから、ああやってキスする友達が僕も欲しいんです。春峰、お願いします!」

見上げる目はさっきと違う。おもちゃを見つけたように楽しげで、獲物を見つけたように強欲な目だった。冷や汗が流れる。服の裾を引っ張られ壁際に立たされ、そのまま腰を下ろす。必然的に主人の顔を見上げる形になる。
煌々と輝くシャンデリアを背後に、さっきとは違う冷めた表情の主人が見下ろしている。

「こんなつまらないパーティーも貴方がいるなら悪くありません」
「へ?…あの、…あっ」
「発情しないでくださいよ」

こんな場所で、こんなに人がいるのに主人は俺にキスをした。舌を絡ませて、酸欠になるようなキス。とても子供がするものじゃない。壁にぐいぐい押しやられて、アルファに責め立てられれば逃げようもない。
唾液が甘くて、もっと欲しくなるような、ぼんやり熱が体を支配していく。頬を軽く摘まれ、蕩けた思考の中で視界が明瞭となっていく。

はた、と気付く。
歩く人がこっちを温かい目で見ている。無邪気な子供のキスにうっとりする大人の姿をくすくすと笑っている人もいる。蔑むような人がいない辺り、本当に老若男女で流行っているらしい。
頬が熱くなる。恥ずかしいのと同時に、この人たちは知らないのだ。
この子は大人にキスをせがむ我儘な子供なんかではなく、大人も何もかもを支配下に置く若く傲慢な王であることを。

「…こっちを見なさい」
「はい、…っ、ん、んぅ」

意識が逸れるのをこの人は許してくれない。覗き込む暗い目から逃げたら、あとで痛い目を見るだけだ。

「最後までこうしていますか。わざわざ媚びてくる相手もしないで済みますし」
「え、…最後まで…?」
「嫌ですか?」
「は、恥ずかしくないですか」
「あなたの顔しか見えないので特には。ほら、口を開けなさい」

指でぐい、と唇から割り入れられ、再び降りてくる主人の唇を受け止める。
結局パーティーの終わりまで、だらしない顔を晒し続ける羽目になり、パーティーの後だというのにいつになく機嫌のいい主人にベッドに引き込まれることになった。

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