「…………という任務じゃ。五年生のくのたまには少し難しいかもしれんが、お主なら大丈夫じゃろう」
『はい、承りました』
私は、学園長先生に呼ばれて庵でとある村の任務を依頼された。
用事はそれだけだった様で、私は「失礼します」と去ろうと障子を開けた。
「時に、」
『?……はい』
不意に学園長先生に呼び止められ、振り返った。
「入学当初に比べて随分と変わったのう」
そう、変わったわ。
だって今の私には………
『はい、今の私には……おかえりって言ってくれる人がいます』
そう言ってくれる彼を思い出し、自然と表情が緩んでいく。
「そうか、それは良い事じゃな」
学園長先生は、まるで自分の事のように嬉しそうに笑った。
* * *
「お、名前ー!」
学園長先生の庵から出てきた私を呼ぶ声、その声を聞いただけで心はポカポカと暖かくなる。
『おはよう竹谷くん。今日は休みなのに朝早いんだね』
「それがな、また毒虫が脱走しちゃってさー」
『ふふ、任務は午後から行くから、それまで手伝うよ』
「マジで!?本当にいいのか?」
『うん、じゃあ私はあっち探すね』
「助かるわー、それじゃあそっちはよろしくな!」
竹谷くんと別れた私は、学園長先生の庵の近くの草むらを探し始めた。
その後、思っていたよりも早く毒虫が見つかったので、私と竹谷くんは一緒に昼餉を食べる事になった。
「……そういえば、名前はこの後任務なんだっけ?」
『うん、そうだけどどうして?』
「あ、いや、毒虫探しのお礼に………、町で団子でもどうかなって思ったんだけど」
照れたように頬をポリポリと掻きながら、竹谷が名前から視線を逸らした。
「あっ、べっ別に、おおお逢瀬とかじゃなくてだな!そのっ、…………うあーーっ!!」
竹谷くんは、目の前で顔を真っ赤にして頭を掻きむしりながら叫んでいる。
当の私も、箸を持ったまま固まり、顔はみるみる内に赤く染まっていく。
これ、期待していいのかな。
私と一緒に出掛けたいって………
『お…………終わったら』
「へっ!?」
『か、帰ってきたら、行こっか、ふ……二人で』
ひとりで暴れていた竹谷くんがバッと振り向き、私と目が合う。告白でもしたかの様に真っ赤な顔をした私と竹谷くん。
「あ、ああ!!行こう!!」
そう言って、竹谷くんは、いつものお日様みたいな笑顔で笑った。
私の大好きな笑顔。
『じゃあ、行ってくるね』
「おう!行ってこい!」
今の私には帰る場所がある。
貴方の「おかえり」があるから。
また「おかえり」って言って貰うから、私の帰る場所に帰るの!
だから、行ってきます!