おかえり (2)

 
 
 
「…………という任務じゃ。五年生のくのたまには少し難しいかもしれんが、お主なら大丈夫じゃろう」

『はい、承りました』



私は、学園長先生に呼ばれて庵でとある村の任務を依頼された。



用事はそれだけだった様で、私は「失礼します」と去ろうと障子を開けた。



「時に、」

『?……はい』



不意に学園長先生に呼び止められ、振り返った。



「入学当初に比べて随分と変わったのう」







そう、変わったわ。



だって今の私には………






『はい、今の私には……おかえりって言ってくれる人がいます』



そう言ってくれる彼を思い出し、自然と表情が緩んでいく。



「そうか、それは良い事じゃな」



学園長先生は、まるで自分の事のように嬉しそうに笑った。









* * *










「お、名前ー!」


学園長先生の庵から出てきた私を呼ぶ声、その声を聞いただけで心はポカポカと暖かくなる。



『おはよう竹谷くん。今日は休みなのに朝早いんだね』

「それがな、また毒虫が脱走しちゃってさー」

『ふふ、任務は午後から行くから、それまで手伝うよ』

「マジで!?本当にいいのか?」

『うん、じゃあ私はあっち探すね』

「助かるわー、それじゃあそっちはよろしくな!」



竹谷くんと別れた私は、学園長先生の庵の近くの草むらを探し始めた。



その後、思っていたよりも早く毒虫が見つかったので、私と竹谷くんは一緒に昼餉を食べる事になった。







「……そういえば、名前はこの後任務なんだっけ?」

『うん、そうだけどどうして?』

「あ、いや、毒虫探しのお礼に………、町で団子でもどうかなって思ったんだけど」


 
照れたように頬をポリポリと掻きながら、竹谷が名前から視線を逸らした。



「あっ、べっ別に、おおお逢瀬とかじゃなくてだな!そのっ、…………うあーーっ!!」



竹谷くんは、目の前で顔を真っ赤にして頭を掻きむしりながら叫んでいる。



当の私も、箸を持ったまま固まり、顔はみるみる内に赤く染まっていく。






これ、期待していいのかな。




私と一緒に出掛けたいって………








『お…………終わったら』

「へっ!?」

『か、帰ってきたら、行こっか、ふ……二人で』



ひとりで暴れていた竹谷くんがバッと振り向き、私と目が合う。告白でもしたかの様に真っ赤な顔をした私と竹谷くん。



「あ、ああ!!行こう!!」



そう言って、竹谷くんは、いつものお日様みたいな笑顔で笑った。




私の大好きな笑顔。




『じゃあ、行ってくるね』

「おう!行ってこい!」





今の私には帰る場所がある。





貴方の「おかえり」があるから。





また「おかえり」って言って貰うから、私の帰る場所に帰るの!




だから、行ってきます!



 


 
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