仙様、恋を煩う
“立花仙蔵が恋煩いらしい”
今、忍術学園で注目の話題はこれだ。
うちの学園は、日々たくさんの話題で溢れかえっている。
主に、トラブルを必ずと言っていい程運んでくる一年は組が、その源である。
つい先日までは、天女様やら忍たまに女がいたやらで騒がしかったのだが………
「サチ知ってるか?」
『知らない、まず話の主旨がわからない』
いきなり天井から降ってきたくのたまは、友人のタマちゃん。見た目は可愛らしいが、性格はその辺の忍たまより男前である。
そして間違っても「おい、おタマ。ちょっと味噌汁すくえよ」なんて言った日には、ボッコボコのメッタメタにされてしまうだろう。
「あのな、風の噂なんだが、くの一志望の転入生がくるらしいぞ」
『うんタマちゃん、それこの前も聞いたのだけど』
「……そうだったか?」
『そうだったです』
くのたまには上級生がいない。タマちゃんの風の噂情報によれば、ここ最近まで五年にくのたまの先輩がいたらしい。
しかし、実際に会ったことはない。というか上級生がいたなんて聞いたことがない。山本シナ先生も、よく「貴女達三年生が一番お姉さんなんだからね」と言っていたし。
ぶっちゃけ、タマちゃんの風の噂情報は九割がただの風である。信憑性はほぼゼロだ。どこからかその噂を拾って来たのかもナゾだ。
「あ、もう一つ話がある」
『そう、次は何の噂?』
どうせまた、おかしな噂を仕入れてきたのだろう。
「土井先生が呼んでいたぞ」
『それを先に言えよタマ公』
私はタマちゃんに跳び蹴りをかまし、忍たま校舎へと向かった。
* * *
土井先生に無事会うことが出来た私は、図書室に寄って帰ることにした。
久し振りに本でも読もう。
しばらく来ていないから、新刊がたくさん入荷されているかもしれない。
少しウキウキしながら図書室へと向かっていると、前方の通路に黒焦げの物体がうつ伏せでご臨終していた。
……もろ進行方向の通路だ。
よくよく見ると、深緑色の忍装束でありまして。
つまり先輩でありまして。
私はその黒焦げの物体に、失礼のないよう労いの言葉を申し上げた。
『先輩邪魔です。くたばるなら地面の方にして下さい』
手で触ったら汚れてしまうので、足で黒焦げの物体をゴロリと地面へと落とした。
さて、気を取り直して図書室へ行こう。
そう思い歩き出した瞬間、右足が動かず顔面から床へ激突した。
『……っ、いた』
顔を押さえながら右足を見てみると、地面の方から伸びた手が足首をガッシリと掴んでいた。
どこの幽霊だ、私を顔面から転かしたクソ野郎は。
私がその手を外そうとした時、別の手が私の手を掴んだ。
汚っ。
その手は黒焦げで、掴まれた私の手は既に時遅し。完全に汚染された。汚っ。
「……そ、その声は……っ!!」
にゅっと顔を出されて、思わず後ずさる。あ、今話題の立花先輩じゃないか。
黒焦げの物体改め、立花先輩は惚けた表情で私を見上げていた。
「見つけたぞ!私の姫っ!!」
『……………は?』
おいおい、ちょっと待て。
立花先輩がお熱な相手って、私のことなの?え、何で。接点なくない?つか初対面じゃないの?
「ずっとお前を探していたのだ!」
立花先輩は足首を掴んでいた手を離し、うっとりとした顔で私の手を両手で包み込んでいる。
なんていうか、ちょっと引くんですが。
「名を、教えてくれ」
『……サチ、ですけど』
立花先輩は「サチ……」と、さらにうっとりとした顔で呟いた。何この人、ちょっと気持ち悪い。
しばらく私を見つめた後、立花先輩の目がギラリと嫌な輝きを放った。
「さあサチ!あの時の様に私を罵ってくれ!!」
『え、気持ち悪っ』
「うはんっっ!!!」
立花先輩は、おぞましい声と共に地面へ崩れ落ちた。
え、気持ち悪っ。
頼む嘘だと言ってくれ
(え、気持ち悪っ)
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