音はいよいよ近くまで来た。
そして――茂みから現れたのは、二人の人物。
一人は白い帽子をかぶった赤髪の女性。体の線が強調されるような服装をしているが、その顔は如何にも人が良さそうな、少しボーッとした印象を受ける。
もう一人は、黒いマフラーを巻いた赤髪の男性。カイルのように筋骨隆々とまではいかないが、鍛え抜いているような引き締まった体型をしている。この男性も女性と良く似た、人の良さそうな容姿をしている。
あれ?
この、目を離すと詐欺師とかに騙されてそうな顔立ちはどこかで。
「あー……」
「……えっ!?」
「……はい!?」
そして俺は見事に絶句した。
どうやら相手も同じらしく、俺を見て思い切り絶句している。
口開いてますよ、お二人さん……。
「な…「「ユキー!!」」
二人は俺の言葉を遮って、抱きついてきた。と言うか、突っ込んできた。
いくらなんでも、大人二人に体当たり級の威力でいきなり抱きつかれたら、体を支えてろって言う方が無理な話だよ。
そんなわけで、俺は二人に押し倒された。
「アティ……レックス……だっけ?」
こいつらは帝国軍人の筈だ。
しかも配属先は陸戦隊なので、あの商船で護衛に就いていたわけはない。
と言うか、軍服を着ていないので任務の最中ではなさそうだが。
「だっけ?って何ですかー!忘れちゃったんですか、私達のこと!?」
「うはは。いやあ、そういうわけじゃねーけど、何か唐突だったし。久々だったし?」
「そりゃ久々にもなるよ!ユキが軍を抜けた時、何も連絡してくれなかったしさ!?」
「あー、そうでしたっけかねぇ。ユキさん忘れちゃったなー、あはは」
「その後も行方を眩ませちゃうし、足取りが一切掴めないしで……私達、凄く心配したんですよ!?」
「……あのさ、二人共」
「「?」」
「こんなところで、しかも子供達の前で長々と俺を押し倒すなんて、随分大胆になったな?」
「ひうっ!?」
「ご、ごごごごめん!そんなつもりじゃ!?」
俺の言葉に、顔を赤くして慌てて離れる二人。
久しぶりにからかうと非常に楽しいので、もう少し弄ってみる。
「あー、びっくりした。出会い頭に食べられるかと思った。性的な意味で」
「そそそそんなことしませんよ!?むしろ、私は食べて貰う側ですから!」
「じゃ、じゃあ俺は食べる側で!あ、で、でも俺も食べられる側でも……」
……前言撤回。久々に会ったことで混乱して、とんでもないことを口走り始めやがったよ。
つーかレックス君、お前はどうか知らねーけど、俺にそっちの趣味はない。
子供達もドン引きしそうだし、暴走の兆しがある二人を鉄拳制裁して黙らせておく。
「あの、ユキ……でしたわよね?」
「うん。何だベルフラウ?」
「この人達、わたくし達の家庭教師の方ですわ」
「か、家庭教師?」
「ベルフラウちゃんに、アリーゼちゃん!?良かった、無事だったんですね!」
「ナップ、ウィル!離ればなれになってなくて良かったよ!!」
あ、復活した。
つーか、本当に家庭教師なんてやってんのか。こいつらも、軍を辞めたのだろうか。
取り敢えず状況を整理するため、二人がこの島に流れ着いた経緯を確認する。
「……で、生徒を助けるために海に飛び込んで、ここに流れ着いたと。相変わらず無茶なことやってんなぁ」
「あ、あはは……」
「ところで、ユキは今何をやってるんだ?」
「うん、お前達の船を襲った海賊の一員」
「「!?」」
案の定、みんなが驚いている。
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