ソノラの砲撃は見事向こうの船の帆柱を粉砕し、その動きが止まる。
実にいい腕をしているが、爆発癖のあるソノラのこと。あまりおだてると、船が沈むまで砲撃を続けるおそれがある。
取り敢えず賞賛代わりに口笛を一つ。
「やっほー!ドカンと命中〜♪」
「やるじゃないソノラ」
「スカーレル、あまりおだてない方がいいぞ。調子に乗せたら、また船を沈めかねないし?」
「ぶーぶー。ユキ、『また』は余計だってば」
ニヤリと意地の悪い笑みを向けると、ソノラは頬を膨らませて反論してきた。
それに対し、船内で爆笑が起きる。中でも腹を抱えて笑っていたカイルは、ソノラにより銃で殴られた。
コラコラ、ガタイのいい大男がタンコブくらいで涙目になるんじゃない。
「おーっし!ユキ、そろそろ突入の準備をしてくれ」
「うぇーい……精々頑張りますよ、っと」
「気ぃ抜いたら駄目だかんね、ユキ!」
「ああ。了解だぜソノラ」
笑顔で手を振るソノラに、俺は元気のない返事を返す。
「ヤード、今更だけど念の為に再確認しとくけど、本当にあの船でいいんだよな?」
「はい、ユキさん。間違いありません」
「しかしよぉ、なんでまた普通の船に乗せて運ぶんだ?」
「おそらく、我々の目を欺くためではないでしょうか?」
「つーか、もう俺達にバレてんじゃん」
「かーなーり、間抜けよねぇ」
心底馬鹿にしたような表情のスカーレルと顔を見合わせ、ニヤリと黒い笑みを交わす。
どこからか情報が漏れたんだろうが……やれやれ、警護に就いてる部隊の規律が知れるぜ。
第二撃命中後、俺は船内に潜り込んだ。
カイル達の奮戦に手を焼いているようで、多数の帝国兵が増援として甲板へと走って行く。
それを柱の陰に隠れてやり過ごす。
「危ない危ない、っと。それにしてもあの数は幾ら何でもキツいかねぇ……」
帝国の軍人は、武術と召喚術の両方を会得している。
数の上ではこちらも引けを取らないが、もし召喚術を使われたら、戦いはかなり不利になるだろう。
俺達の中で召喚術を使えるのは、俺とヤードのみ。
まあ、ヤードの力があれば一般兵士の召喚術なら無理矢理抑え込めるだろう。
他のみんなは……カイルは接近戦ならまず負けないだろうし、頑丈なので多少ダメージを受けても問題ない。アイツ、脳筋の疑いもあるし。
ソノラは銃を持ってる限り、遠距離から召喚術を撃たれる心配はないな。むしろ、乱戦になった場合仲間に当てないかが心配だ。
スカーレルは立ち回りの巧さと機動力で、まあ何とかするだろう。と言うか、タイマンじゃなけりゃカイル以上に強いしなぁ。
……あれ、割と心配いらなくね?
「ったく、心配した俺が馬鹿みてーじゃん……。ま、上のことは上の奴らに任せて、俺は自分の仕事をしないとねぇ」
俺は目的地目指して、一気に駆け抜ける。
「なんだ貴様は!?」
丁度曲がり角に差し掛かった所で、早速三人の帝国兵に発見されてしまった。
あーあ、いきなり見つかるとは。油断大敵とはよく言ったもんだな。
いや、俺の腕が訛ったのかねぇ?
俺は溜め息を吐き、爽やかな笑顔で答える。
「はっ!私服帝国兵でありますっ!!」
……数秒の気まずい沈黙。
「そんな嘘に騙されるわけないだろう、この海賊め!もっとましな嘘を吐くんだな!」
あれまー、そりゃあバレますよねー。
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