海を見つめていると、思考が様々な想いを巡らせる。
それは捨て去った筈の過去であり、今の俺が手を出すべきではないもの。


そしてーー取り返すことが出来ないものである。



「おーいユキ!そろそろ今回の作戦を話すから、こっちに来てくれ!」



自分を呼ぶカイルの声に、思考を振り払うように深く息を吐き出した。
そして笑顔を作り、明るい声音で返事をする。


「ああ、今行く!」


俺は風で乱れた髪を掻き上げ、カイル達の集まっている部屋へと足を進める。

そうだ、過去に追いつかれないためにも――今はただ、前に進まなければ……。







「今回俺達が奪うのは、ある商船に積まれた二本の剣だ。どうやら帝国の軍人達が護衛としてついてるらしいからよ、みんな気合い入れてけよ」



今回の仕事内容を説明するカイルの言葉に、他の船員達が威勢の良い返事をする。
俺はある程度作戦の内容を知ってはいたが、改めて言われると、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。


帝国軍、ね……あまり真っ当に戦いたくない相手だな。

表情に出したつもりは無かったが、勘の鋭いスカーレルが俺の内心を察したらしい。
あるいは、気遣ってくれてのことだろうか。

カイル達に聞こえないよう、こっそり耳打ちしてきた。



「ユキ、大丈夫? もしかしたら、昔の同僚達と戦うことになるかもしれないわよ?」
「なーに、心配には及ばねーって。これまでだって、帝国軍とは何度か戦っただろ?」
「これまでのは小競り合い程度じゃない。今回みたいに、真っ正面からってのは始めてよ?」
「だとしても、さ。このユキさんを甘くみてもらっちゃ困るねぇ」
「あらあら、それは頼もしいわね♪」


冗談めかして返すと、スカーレルもクスクスと笑いながらウィンクで応えた。


「砲撃とともに接舷する。みんなは連中の目を引くため、船外で戦ってくれ」
「兄貴、突入して剣を奪う役は誰がやるの?」


カイルの妹分のソノラが、銃をいじりながら質問した。
それに対してカイルは、さも当然と言った顔で俺を指差し……。



「ああ、それはユキに頼む」
「げ、俺ぇ? うえ〜……厄介事押しつけられた気分だよ、まったく」
「おいおい、ユキの腕を信じてるからこそだぜ? 俺は指揮を執らなきゃなんねえし、スカーレルには撹乱してもらわなきゃならねえ。敵の最深部まで突っ込めるのは、あとはお前しかいねえのさ」
「へーへー、わかってますって。ま、期待を裏切らねえことは約束するぜ?」


ニッと笑うカイルに、俺は肩を竦めて気怠げに笑って見せる。
すると、ソノラが小動物のように俺に飛び付いてきた。と言うか、勢い的には体当たりと言っても過言ではない。


「キャー、ユキ格好いい!」
「おー、可愛い声援ありがとなソノラ。ただ、銃持ってくっ付くのは勘弁してくれ」
「キャー、ユキ格好いい〜♪」
「お、おう……」


悪ノリしたスカーレルから飛んできた茶色い声援には、流石の俺もタジタジである。
気力を根こそぎ奪われた気分なので、ソノラの頭をワシャワシャと撫でて回復する。気持ち良さそうに目を細める様は、まるで子猫のようだ。

あー、癒される。


そんなやり取りを続けていると、見張りの船員の声が響いた。



「お頭!目標の船、東の方向に見えてきましたぜ!!」



視認出来るまでの位置に目標が近づいたことに、船内には戦闘前特有の緊張感が走る。
そしてその報告に、全員が戦闘の準備に入る。



「おー、肉眼でも見えるくらいになってきたな」
「ソノラ、砲撃の準備だ。沈めるんじゃねえぞ!」
「わかってるって。まっかせなさーい!」


船がはっきりと確認できるようになった時、ソノラが目標に向けて砲撃を行った。


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