もう一度頭を撫でると、それ以上異論は無かったのか、不思議そうに俺が撫でた部分に手をやっていた。



「そう言って貰えると、心苦しくなくて助かるわ。……有り難う」
「何の、お安いご用でー」



やんわりと微笑むアルディラに軽〜く笑みを返し、再び椅子に座る。



「彼のカルテなんだけど……一応目を通してみて。大したことは書かれてないけど」
「じゃ、お言葉に甘えて。つっても、見た所でイマイチわかんねーけど……」



受け取ったカルテには、身長、体重、血圧……等々、ごく基本的なことが記入されているだけで、これといって注目すべき項目はなかった。
アルディラも、別段何かに期待している様子はない。

ま、何もないよりはマシだから、取り敢えず見ておいた方がいいってことかな。



苦笑しつつ、最後に少年の名前を確認すると――そこには、"万が一の場合"が記されていた。



その少年の名は、イスラ。



昔、少しだけ会ったことのある――アズリアの弟の名前。



「成る程、イスラさんね」
「ではユキ様、準備が宜しければこちらへ」
「はーい」



アルディラにカルテを返し、クノンの案内に従ってイスラのいる部屋へ向かう。



イスラのいるらしい部屋まで案内し終えると、終わったら先程の部屋に来るようにと言い残し、クノンは戻っていった。
患者にもしものことがあった場合を考えてか、病室は全て、先程の部屋に近い位置に作られているようだ。


クノンが部屋に戻り、姿が見えなくなったのを確認してから――俺はゆっくりと、静かに扉を開いた。



「イスラ……イスラ・レヴィノス」



俯いてベッドに腰掛けていたイスラは、突然の呼びかけに驚いたのか、少し肩をビクリとさせて、恐る恐るこちらに視線を向けた。

俺の姿を認めるや否や――若干警戒の色が含まれていた瞳が、驚きの色に染まっていく。



「やっぱり、あのイスラなのか……」



軽く溜め息を吐き、前髪を掻き上げて側へ歩み寄る。

ベッドの横に備えてあった椅子に腰を下ろし、ニコリと微笑んでみせる。



「久し振りー……って言っても、ほんの数回会っただけだし、覚えてないだろうねぇ」
「あ、あの……」



一人苦笑する俺に、どう声をかければいいか躊躇っている様子のイスラ。

あーあー、一応リハビリのために呼ばれてるんだよな、俺は。



「あ、自己紹介がまだか。俺はユキ。アンタを助けた奴が今手を離せないから、代わりに様子を見に来たのさ」
「そうですか……どうも、ご迷惑をかけます」
「はは、気にするなよー」



畏まって頭を下げるイスラに苦笑し、取り敢えず、体の具合や記憶のことを聞いてみる。
クノン達の言う様に、体調面に問題はないらしいが――記憶が部分的に抜け落ちているらしい。


肝心のここ最近の記憶すら、すっぽり抜け落ちているとのことだ。



「あの……ユキさんは、僕のことを知ってるんですか?僕の家名や、姉の名前を知ってるみたいだし……」
「おー、アズリアとは軍学校の同期で、実はソイツに連れられて、アンタとは何回か話したことがあるんだぜ」
「そう、ですか……。記憶が抜けてるせいなのか、僕が忘れてるだけなのか……すみません……」
「はは、謝んなよー。会った回数も回数だし、忘れても仕方ねーさ」



「有り難う御座います」と微笑むイスラに、俺も優しく笑みを返す。


その後も幾つか質問してみたが、記憶が抜けているため、満足のいく答えは僅かしか得られなかった。


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