始まりの合図
私の親は二人ともほとんど家に居ない。 父は有名な天文学者で、今は海外に居る(ここ数年会ってない)。 母は仕事が大好きな働き者で、夜も仕事に就いているため家を空けることが多い。 父も母も電話でラブラブしてるから家族全体への影響はない。
私は自由気ままに生活している小学生だ。 学校で授業を受けて帰宅する。平日はそれの繰り返し。 帰宅後は、特に何か目標があるわけでもなくふらふらと散歩をする。 家に帰って親が居ないときは、ほとんどコンビニに晩御飯を買いに行く。料理ができないわけではない。やらないだけだ。決して得意ではないがやらないだけだ。(カレーライスを作った時にとんでもないことになった記憶なんてない、ないぞ。)
そんなある日、不自由もなく普通に過ごしてきた私の生活に転機が訪れた。
「名前、引越ししたいんだけど…」
母の転勤で他県へ引っ越すことになったのだ。
「あ、あのね、名前がこっちに残りたいのならいいのよ。私の転勤キャンセルできるかも知れないから、それでね、」 「いいよ」
友達と言える友達もいなかったし、私は少しでも家族といられる時間を大事にしたかった。一つ不安なのは元気な幼馴染を残していくことだが。 一言で承諾をした私に母は不思議そうな顔をしたが、すぐに引越しの準備を始めた。
引越しをした日の夜、新しい環境、新しい我が家で私と母はゆっくりする時間ができた。 大抵そんな時間は、私が学校の話をしたり、母が仕事の愚痴をはいたりする。 その日の話はいつもと違った。母の話が私のこれからを左右するなんて思ってもいなかった。
「名前、あなたは夢ってある?」 「夢?」
突然言い出した言葉に思わず口をポカン、とあけてしまった。
「ほら、名前って学校の話するときあまり楽しそうに話さないもの」
そりゃそうだ。私はあまり学校を楽しいと思って生活してない。勉強ができればいいとだけ思っている。話をするときだって表情に出るんだろう。
「将来のことを考えろって言ってるわけじゃないのよ。人って目標があるとそれに向けて頑張るじゃない?名前も夢中になれるものがあれば色々経験できるし、暇つぶしにもなるし…毎日が充実するんじゃないかな」
ね?、と言いながら笑いかけてくる母。母の言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
「ゆっくりでいいのよ。名前のやりたいものを見つければ」
私自身、毎日暢気に過ごしているから、なにかしたいとは思った事がある。しかしきっかけもなく、やりたい事も見つからないのだ。 もしかしたら今回の転校がいいきっかけになるかもしれない。
「…明日から学校で探してみる」 「うん、頑張ってね」
おやすみ、と互いに挨拶を交わして新しい自室のベッドにダイブする。 寝る時も母の言葉が頭に残っていた。
次の日の朝、転校初日に私の生活はさらに大きく変わることになる。
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