「願いを・・・?」



私の声はラヘルに届いていたか分からないほど小さかった
セシリアと幸せな日々を送る事も叶うの・・・?
私はこの世界に来てセシリアの過去を知った
そこで私の心の中で、あの時、前の現実の世界でセシリアと
二人で病院の中過ごした日々が泡沫の幸せが・・・、

ずっと続く事を願っていた

そんなワガママが許されるのなら、私は
その瞬間、クリスタルが熱を発し、慌てて落としてしまう
パリンッとガラスの玉が割れるような音と共に強風が吹く


「お前か、ラヘル」
「おやこれはこれは、オルカ王子、いや今は篠王子だったかな?
そんな物騒な物は下げたまえ、私は何もせぬよ、ただそこの
儚い少女の願いをかなえようとしているだけさ」

「お前こそ、その物騒な、杯を下げるべきじゃないの?」


篠はラヘルと睨み付けると日本刀をラヘルに向ける
ラヘルはやれやれと言った風に首を振るとまた笑みを浮かべる


「篠王子よ、貴方もお気づきだろうが、神殿の結界を何者かが
破ってしまってな、もう私達には手段が無いのだ」

「生き残った巫女は・・・、」
「一人だけ・・・、だ・・・、が、しかし、その巫女も重体でな
目を覚まさぬ、しかしこれ程の決壊を一瞬にして無にできる人物は
中々おらぬ、魔力を使い果たし何処かで死んでいるか・・・、あるいは」


ラヘルさんが私を見るその目は何処か悲しげであり無でもあった
この人は女神を信仰している、だけどその感情を超えた先にその
悲しみがあるのだ、女神すらも超える悲しみを与える者が


「無知は時に罪だ、しかし知る事でそれが幸せを
崩してしまう切っ掛けになる事もある・・・、崩壊し始めたら止められない
私はこの世界が崩壊したとて構わないよ・・・、だが、それでいいのかね?」



「篠・・・、」


私の声と風が吹くタイミングは同じだった、風が私の声を消した
篠の目が、光がまだ届く海のような目が一瞬濁った気がしたのだ
それと同時に銃声が響く、慌てて振り返ると月子さんが銃を構えていた
ラヘルの右頬は傷ができており右手をその傷に当て「挨拶すらせぬとは」
と首を傾げた
するりと手が元の位置に戻る事には頬の傷は消えており治療魔法を
使ったのはわかったが早すぎて理解が追いつかなかった


「どういう事だ、ラヘル」
「番犬、ここには女王はおらぬよ、ああ、もう、だがね」

「何?」


ラヘルの言葉で三人の目線はラヘルへと集中する



「さっきまでセシリーア女王の魔力の香りがしたんだ、私の予想では
封印を破った人物は・・・、とね、それにセシリーア女王の力であれば
可能であろうとも思っている」

「私は感じなかったが・・・?」

「おやおや、番犬も飼い主を追いかけまわす事に必死で魔力を
嗅ぎ取る嗅覚が劣らえたという事かな?まあしょうがないだろう
ここは神聖な場所で悪臭はすぐに打ち消される」



ジャリッという粉々になったガラスを踏むような音が微かに聞こえた
その瞬間にゾクリと全身に寒気が走り慌てて神殿の方へ見るが
何も無くただ今感じる恐怖は神殿の中からにじみ出ている

ラヘルや月子さんを見ても誰も気づいていないのか私を見ない
私の異変に気付いたのは篠だけだった


「花恵・・・?」
「神殿から・・・、嫌な感じが・・・、怖い・・・、」


篠も神殿を見るが、何も感じなかったのか首をかしげて私の顔を覗く


「なんか、すごい魔力を感じるの・・・、」
「俺は何も感じないけど・・・、見てこようか?」


ラヘルは「私も感じないが・・・、ん?これは・・・、」と呟くと空を見上げる


「おや・・・、これは思ったよりも早いな・・・、」
「どういう事だラヘル」
「番犬、急げ、神殿の中へ、女王の魔術が天空を裂いた、無理やり
天空に穴を開けるつもりだ」


「篠!ダメ!神殿から・・・、」



無数の悲鳴が聞こえる、苦痛にもがく声、怒声、罵声、すべてが混ざる
悲鳴、悲鳴、悲鳴、そうだ、例えるならば全ての悲鳴
人々の悲鳴が神殿の奥から聴こえてくる、まるで歌のような
いや、これは、



「絶望が・・・、歌が・・・、聴こえる」




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