朝になってもイヴァラータに太陽は昇らない
とても厚い雲に覆われている
月子さんから一通りの説明を篠と一緒に受けた後
出国の準備を篠とする
篠は「大体の物は魔術で補えるから」と手ぶらだが
万が一の為に救急セットをメイドさんから貰った


「篠の前にでも乗るといい」
「うん、そうだね、花恵、乗れる?ほら捕まって」


篠さんの腕に捕まると持ち上げられ馬にまたがる
魔術で作られた軍馬は召喚で呼ばれるらしく
疲れないし食事もしない、この世界では一般的らしいく
魔獣の一種らしいがイヴァラータが独自に飼いならした軍馬
なので戦闘にも向いているという

見た目は普通の馬だが目がとても赤い・・・、


「花恵大丈夫?」
「うん、篠、私、この世界の事、少し分かったよ」
「やっぱり、イヴァラータに来るべきじゃなかった?」

「ううん・・・、まだ分からないこともあるけど篠、あのね」


大きな影が地面を走る
慌てて空を見上げると巨大な黒色の鳥が飛んでいた


「チッ、魔獣か!」
「本当!イヴァラータの防衛線はどうなってるの?!」
「きっと防衛線が無理やり引きちぎられているんだわ・・・、
それに、花恵の魔力を嗅ぎ取ってきたのね!」


「私の・・・?!」
「あら、私が気づかないと思った、アンタの体中から
染み出る王族の魔力はね、魔獣にとって好物なの」


月子さんはショットガンを召喚すると空を飛ぶ鳥に向かって撃ち込む
三発、鳥に命中したのか黒色の液体が空から降り注ぐと
篠は「捕まって!」と叫び馬を飛ばす
黒い液体がついたところはジュウッと音を立て焼けていた
鳥はこちらに向かって突進してきており月子さんは「死ね!」と叫ぶと
鳥の囲むように無数の魔法陣が開き一気に銃弾が撃ち込まれた

鳥はどろりとした黒色の液体へと変わると地面に落ち地面を焼く


「さすがにいちいち魔獣を相手して神殿を向かうわけにもいかない
かっ飛ばすぞ、また匂いにつられてコイツの仲間が来る」
「ああ、そのつもりだよ!行くよ花恵」
「え、あ、う、うん・・・!」


何処か違和感があった、月子さんは魔獣は何処にでもいて
たまに人を襲っては事件になると言っていた
魔獣がいるのは普通の事、野生動物とさほど変わらないと
ただイヴァラータの国内にいる事が問題らしいのだが
この魔獣、微かに誰かの魔力を感じた

私の気のせい?

月子さんや篠が気づいていない・・・、でも、何処か
ゾッとする感じ・・・、


「篠、魔獣って操作できる魔術でもあるの?」
「うん?ああ、あるよ、俺らがこうやって魔獣の馬に乗れるのも
そういう術が馬にかけられているからなんだ」
「じゃあああいう巨大な鳥にも?」

「花恵?急にどうしたの?」
「あの鳥から微かに魔力を感じたの、誰か人間の・・・、」

「たぶんイヴァラータへ攻める魔獣を操っている人間の魔力だろう
花恵が魔力を嗅ぎ分ける力があればだれかわかるが・・・、まあ無理に
考える必要もない、そのうち、わかる事だ」



馬に揺られ続け、丘を越えた先に神殿は見えた
丘の上に立つ大きな神殿
これが、あのアルテミシアを封印している・・・、神殿・・・、


「さ、花恵、大丈夫?」
「うん・・・、篠・・・、大丈夫?」


私はふときいてしまった、篠の表情が辛そうだったから
篠は微笑むと「大丈夫だよ」と言って私の頭をなでる
ずっと気になっていたことの一つ、篠は何故こんなにも私に
優しくしてくれるのだろうか

あっちの世界でも小さい頃にあった事がある
篠は虐められていた私に声をかけてきた
あの時から変わらない姿、篠も人間じゃないのかもしれない
そりゃあのシュヴァリエ様の息子となれば普通ではないだろうが

でもどうして私を・・・?


月子さんは中を調べてくると言って神殿の中に入っていった
篠は神殿に入る前に立ち止まる「これは・・・、」と呟き
私の方へと振り返る

「ああ、花恵、このあたりは、加護が厚いから魔獣は来れないし
それに花恵には・・・、神殿はつらいと思うからそこで待ってて
なんか、嫌な予感がするんだ、血の臭いが濃い、神聖なる場所だから
そんなことはないと願うけど・・・、」


一人になるのは心細かったが篠からクリスタルを渡される
危険なときはこれを叩き割れば篠が呼ばれる魔術が込められた結晶らしい
うなずき神殿の中に入る篠を見送ると階段に座り草原を眺める

何故かこの場所は太陽があり、久々に日光を浴びている気がした
イヴァラータには太陽は昇らないそれはセシリアの呪いだと誰もが言う
太陽がない生活なんて・・・、人々の心は霞んでいってしまう・・・、


「おや、これは、珍しい客人がいるではないか・・・、」


突然声がして目線をそちらに向けると
緑の長い髪を緩く束ねた男が微笑みこちらを見ていた
さっきまでいなかったのに!慌ててクリスタルを握ると


「何、こちらは何もしないよ」と男は言って一歩一歩と私に近づく


「貴方は・・・、もしかして・・・、メルクリース国の・・・、」
「ああ、私を知っているんだね、私はラヘル・メルクリース
ただの牧師さ、お嬢さんは記憶にないだろうが私は貴方の心臓に
魔術をかけた本人でもある、何、私の願いを聞いてくれないだろうか?」



男は右手を二回軽く振ると丸い水晶みたいなものが現れ浮かぶ


「いや私の国の巫女が殺されてしまってな、神殿内にはすでに番犬と王子が
おるのであろう?きっと私の国の巫女だと気づいてくれるだろうが
おかげ様で私の目は全て閉ざされてしまった、」

「何を、言って・・・、」

「貴方の心臓に刻まれた逆さ十字に鷲の翅の刻印は旧イヴァラータ国の
栄光の印、それを刻んだのは紛れもなく私だが、いずれにせよその印が
無ければ神殿から繋がる天空の螺旋は昇らない」


ゾクリ、ゾクリと鳥肌が立つ
結晶を握る手が恐怖で震え、頬に汗が伝う


「あの時は、急でなあ、適合する封印する物が見つからなかった
普段は結晶や魔術書にでも刻むこむのだがなぁ・・・、失態失態
まあ紙も石もなくあるのは人の死体のみだったのだしょうがなかろう」

「私の心臓に・・・、印・・・?貴方は何を・・・、」

「そこで話が戻るのだが、私の願いを聞いてくれないだろうか
私は貴方の心臓の印を手に入れたい、それと引き換えに貴方の
願いを何でも一つ叶えてやろうではないか」










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