Happy OZ Christmas!!




【19時半】アクセルとフーカ

 赤に緑、白、青。ハロウィンが終わると、街は一気に色を変える。
 日が沈み、いよいよ明かりが主張し始め浮かれきった雰囲気を戒めるように、いつも以上に警戒しながら歩く。……と、いつも以上にカラフルで趣向を凝らしたクリスマススイーツが、おなじみのものから創作新作どの店も目移りしてしま……いや、もう少しで帰れるのだから、仕事に集中しなければ。

 一層にぎやかな広場の中央まで来ると大きなツリーが立っている。シーズンが始まってすぐ、全ファミリー共同でここに立てたものだ。何年ぶりだろうか、突然キリエが広場のツリーを復活させると言い出して、特に誰の反対もなくここに飾られることになった。
 開けた広場でまっすぐ伸びた先に星、その上には、塔。
 塔の上には王様がいるという伝説を100%信じているわけではないが、気になるものは気になる。少なくとも、サンタクロースよりは信じている。

「アクセル君、お仕事お疲れさま」
「ブッシュ・ド・ノエル」
「え?」
「その箱の中身はブッシュ・ド・ノエルだろう」
「う……うん、そうだよ。よくわかったね」
「それは君が買ったのか?」
「キリエさんのおつかいだよ。カラミアさんも、アクセル君が帰ってきたらみんなで食べようって言ってた」
「僕も、食べていいのか……!だが、僕はこのあと広場まで見て回らなければいけない……!ああ、はやく、食べたい……!」
「大丈夫だよ、戻ってくるまでみんな待ってるから」
 いいや信用ならないとひとり顔が浮かんだが、彼女の言葉がそれを抑えこむ。ここは彼女を信頼しよう。
「フーカ君、頼む。どうかケーキを、頼む……!」
「うん、待ってるから。もう少しがんばってね」

 オズ領の人混みに消える背中とケーキを見送って振り切るように見上げた空にも塔が見えていた。
 塔、星、ツリーと、街の明かりでにじんだ夜空。
 まずは、なにごともなくこの時間が終わりますように。早くケーキを、待っていると言ってくれた彼女と、美味しく食べられますように。
浮かんだ願いを叶えるのは果たしてサンタクロースなのか塔の上の王なのか。迷っていると腹の虫がなった。


【23時】キリエとフーカ

 夕食が終わり街へ出ると人混みは無く、酒の入った集団がいくらか見える程度。今日一日人々であふれていただろうあちこちの店も、ショーウィンドウの明かりだけを残し今は静かな夜に浸っていた。
「この時期は財布の紐が緩みやすくて助かります。祭りだろうが、いっそ殺しだろうが構いません。金が回れば良いのです」
 夜の散歩についてきた彼女を逆なでするように身もふたもないことを垂れ流していく。イルミネーションの雰囲気を味わいたいのだろうに、そうなんですかと馬鹿正直に反応するのは、まったく、私と居て嫌にならないのかと畳み掛けてしまいたくもなる。そうしたところで脳天気に笑うだけだとわかっているから、自分に向けたため息ひとつで済ませた。

「わあ……人が少ないとツリーも綺麗に見えます」
 赤いレンガ道の終わり、円形に広がる空間の中央にそれが見えると彼女は走り出した。小さくなる背中が、その先の塔へ吸い込まれてしまうような気がして歩調を速める。
 あれのおかげで、私も塔を見上げる事が増えた。普段ならここで足を止める人間などおらず、誰もがまるでこの巨大な建造物が存在しないかのように通り過ぎていく。それに紛れてほんの少し、帽子を抑えて顔を上げる程度の習慣。
「私の癖も、これなら周りに馴染んでくれますね」
「癖?」
 遥か空の上を向いていた彼女の視線が隣りに並んだ私へと下りてくる。
「……上からはどういう景色が見えるのでしょう」
「うーん、きっとキラキラしていると思います」
「確かに、今晩はずっと明かりがついてますからね」
「イルミネーションがなくても、キラキラして見えたら良いですね」
 思わず笑ってしまう。そんなわけはないでしょうと、いつもなら否定する言葉が今日は不思議と喉の奥で溶けてしまう。
「貴女にも、この街は綺麗に見えますか?」
「はい!今日は特別キラキラしていて素敵です」
 にっこりと笑って、きっと心からそう思っているに違いない。
 ――またひとつ、きれいな世界を見せてあげられたのね。
 よくできましたと、胸の中の誰かが自分に判を押す。
 塔の上からこちらを見下ろすと、群衆の中に私やこの少女が見えたりするのでしょうか。

「満足したら帰りますよ。あまり遅くなったらカラミアサンタの準備に支障を来してしまいますからね」
「えっ、カラミアさんから何かもらえるんですか?」
「ええ、たった今私が思いついたのですが」
 プレゼントは何がいいか考えておくと良いですよ。今度は無責任な言葉を投げながら、またも素直に考え始めた彼女と共に赤いレンガ道へ踏み出した。


【24時】カラミアとフーカ

 こんな夜に無茶振りをされて困った。
 キリエの突拍子のなさはいつものことだが、それに乗せられたお嬢さんの勢いまでひとりで受け止めるのは大変だ。こういう時に限ってアクセルは遠くから見ているだけ。違う、今日はずっとケーキに夢中でこっちを見てもくれなかった。
 お嬢さんのおねだりは後日ということで落ち着いたが、これから酒場に出向く仕事が残っていると思うとため息が出る。
「カラミアさん、マフラーを忘れてます!」
 扉に手をかけたところでそのお嬢さんに呼び止められた。そこまで寒くはないだろうと置いてきたのだが、追いかけてきてくれたものはありがとうと首にかけておく。
「気をつけて、いってらっしゃい」
 そう手を振られると必ず帰ってくるさと心の中で返す。大げさだが、願いであり誓いであるこの言葉で改めて自分に気合いを入れるのだ。

 そのまま見送られてひとり歩けば、一日の終わりの静かな、でもいつもとは違う空気に身体中が包まれる。クリスマスというイベント自体気分が高まるものだが、それ以上に祭りに湧く街の様子が嬉しい。柄の悪いやつらとの小競り合いはあるものの、こういう祭りを楽しめるのは何よりも平和な証拠だ。

「あー……綺麗だ」
 そうだ、と思いついて、酒場へ行く前に足を向けたとっておきの場所。
 祭り騒ぎの後、静まり返った広場に残った影をツリーの明かりがチカチカと染める。光の波が反射する塔を目でたどって登ると、静かな空。冷たい風がわずかに人の声を運んでくるなかで、あー、と口を開けたまま真上まで首を持ち上げていく。
 視界に広がったのはただ一色の空。街が明るいせいか星が消えている。
 冬の星は好きだ。この時期は夜中まで騒いだ後、もっと夜が深まればしし座も見える。
 メリークリスマス ハッピーニューイヤー
 ぼんやり天頂を眺めている耳が拾った誰かの歌声。
「来年も、お嬢さんが笑っていてくれたらいいなあ」
 次に聞こえた自分の声に驚いて思わず周りを見回す。ひとりごとは誰にも聞かれていない。
 まいったなと頭をかいて仕事に戻るため歩き出した。

 すれ違う酔っぱらいたちに挨拶をされ、メリークリスマスと返して笑う。こうやって領民が自由にしていられるのも、平和あってのことだ。
 こんな世界を誰かがを見下ろしているというなら、きっと悪い奴ではないんだろう。
 広場の端で立ち止まり、振り返って塔を仰ぐ。
「たまには挨拶でもしておきますかねえ……メリークリスマス!」


【25時】 ドロシー

 流星群なんて塔の上からでも遠いものなのよ。
 でも、あの星、ツリーの上の星なら届きそうに思えるのよね。
 あれを見下ろせばみんなが見えるし、貴方達だってこっちを見ているから嬉しいわ。

 そうね、サンタもプレゼントもないクリスマス、もう何回目かしら。
 でもね、様子を覗く度にどんどん輝いていく街そのものがプレゼントみたいなものなの。
 そう、貴女へのプレゼントよ。
 いいえ、みんなのプレゼントと言うべきね。
 そうやって貴女が大切な人たちに囲まれていること、自由に過ごしてくれること、
 それがわたしへのプレゼントだって思えるわ。

 メリークリスマス、素敵なクリスマスを!


おわり

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クリスマスイヴにTwitterで突発bot企画をやりました。
2時間毎に広場の様子を垂れ流して、日が沈んでからはSSになったり。
楽しかった!!







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