Happy OZ Christmas!!
クリスマスの夕日に染まる街。
長く影を伸ばす塔を中心に、広場ではたくさんの人が行き交う。家族連れや恋人たち、集う人々それぞれの時間が流れていた。
「わ、点いた点いた」
客でにぎわうワゴンから顔を出したソウが見上げた先には、塔に寄り添う大きなツリー。
昔はこの季節の象徴だったというそれは、数年ぶりに各マフィアの支持によって復活されたもの。塔に負けじと山から切り出された巨大なモミの木は子どもたちの作ったオーナメントで飾られ、大きく巻かれた明かりが登っていった先には金色の星が輝いている。
ちかちか、ちかちかちか。
リズミカルに音がしそうなイルミネーションの波が流れていくと、立ち止まり見上げる人々の顔が一斉に輝く。
「わあ……綺麗!」
買い物を言いつけられ街まで出てきたフーカもまた、そのひとりだった。
【18時】シーザーとフーカ
「あ、シーザーさん。メリークリスマスです!」
「あ?……ああ、お前か、獲物」
満席の屋台の端、ソウの声につられ明かりが点いたツリーを見ているとのんきな声がした。手ぶらで歩いてきたようだが、こいつもツリーを見に来たのだろうか。
「お店、忙しそうですね。お手伝いですか?」
稼ぎ時だから連れ出された、と答えた俺の全身を嫌ににこにこ見てくるのが落ち着かない。だからどうした。その気の抜けた顔をいつものように睨んで返す。
「似合ってますよ、サンタクロースの格好」
……そう、この真っ赤に浮かれた服では、睨んだところで迫力がないのだ。それどころかガキがどんどん寄ってきてやかましい。
「……うるさい。これは肉のためだ」
「にく……お肉、ですか?」
「クリスマスとは肉を食う日だと聞いた。それで、店を手伝えば明日からもたくさん肉が食えることになっている」
「お肉……間違ってはない、かな。シーザーさん、働き者になったんですね!」
お前に言われるまでもない。働けば肉が手に入る、簡単な話に乗っただけだ。
「この間かぼちゃ祭りが終わったかと思えば……今度はクリスマスだクリスマスだとうるさかったが、肉祭りだというのならもっと早くから動いたものを」
「ふふ、気合い入ってるんですね」
もちろんだ、と腕を組んで鼻を鳴らす。
ふと屋台を見ると、身を乗り出したソウが手を振って俺を呼んでいる。これ以上こいつと話し込んでいる時間はないらしい。
「……呼ばれた」
「やっぱり忙しいですよね。おじゃましてすみませんでした」
「いや……せいぜいお前もたらふく食うことだな、獲物」
「え、あ、はい!ありがとうございます」
その声を聞き終えてからソウの元へ足を向ける。
どうしてあいつは、俺の仕事の話になると楽しそうにするのか。
どうして俺は、イライラしているはずなのに話を終わらせたくないと思ってしまうのか。
テーブルの客に呼び止められるまでの数歩の間では、答えなど出そうにもなかった。
【19時】スカーレットとフーカ
空で輝く星は、手を伸ばしても届かない。流星群祭に降る数えきれないほどの星だって、実際どこに落ちているのかわからない。
クリスマスの夜空を見上げると雲はない。でも、これだけ賑やかな明かりの下からではただ藍色の天井のように見えるだけだ。そう、天井。なんとなく息苦しい。
街の人達は皆楽しそうにしているのに、僕は空を見てはネガティブになってしまう。これも、僕がもっと大きくなれれば、大人になれればいいのだろうか。こんなことを考えてばかりでうつむいていると、あの人に怒られるだろうか。
「スカーレットさん」
足元のレンガを追いかけるだけになった僕を呼び止める声。顔を上げて見えた姿に、重い気持ちはどこかへ飛んでいった。
「フーカさん……!」
「こんばんは」
「ああ、こんばんは。……ええと、クリスマス、楽しんでる?」
「はい!街がいつもより眩しくて、美味しいものがたくさんあって、とってもわくわくします」
「そうか、それは良かった」
彼女が笑ってくれたことにほっとする。いつも彼女の前では会話を続けることに気持ちを集中させている。何度も顔を合わせてきたから、最初の頃よりずっと話せるようになっている、と、思う。その証拠にほら、いま目の前で僕の言葉を待っていてくれている。
「その荷物は夕食の買い物か?」
「はい、おつかいでお店を回ってるんです」
にこにこと笑う彼女が、おそらく食べ物であろう紙袋や箱を僕に見せるように振って答える。
「ああ、ちょっと……!ケーキ屋の前にいるということは、その箱、ケーキだろう?あまり振ると崩れてしまうんじゃないか?」
「あ!そうですね。早く食べたいなってうきうきしちゃって。気をつけます」
「あっ、すまない。つい、気になってしまって」
「いえ、スカーレットさんのおかげでケーキを守ることができます!ありがとうございます」
「いや、ありがとうと言われると……そうか、ありがとう、か」
次第に小声になる自分に気付き、味を損ねてはいけないから早く戻った方がいい、と手を振り見送る。
「ありがとうと言ってくれて、ありがとう」
言いそびれたことを小さく口に出してみる。次に会った時こういう言葉を使えば、もっとうまく話せるかもしれない。
くすぐったくて顔を上げた先には、広場のツリーの星が輝いていた。
そうか。
空の星は見えないが、十分大きな星が見えるじゃないか。
背筋を伸ばし肩に手を当ててライフルを担ぎ直す。
今日は前を向いて歩くことにした。