雨宿りの話



0822ワンライ30分
お題「水たまりだけが知ってる」


「わ、降ってきちゃった!」
 フーカの声であわてて近くの軒先に隠れる。あまり広くはない場所で並んで立つ目の前を雨だれが落ちる。
「危なかったー。フーカ、濡れてない?」
「ううん、ソウは?」
 大丈夫、と答えて空を見上げる。
「風もあるし、たぶん、すぐ晴れると思うけど」
「えっ、わかるの?」
「うん、森で暮らしてるとこういうの得意になるよ。フーカもやってみる?」
「私はいいよ」
 くすくすと笑うフーカにソウも満足気に笑う。貴重なふたりの時間を中断されしまった分、その笑顔を見てほっとした。
「雨宿りだね」
 雨宿りをしている時にバカみたいな言葉だと自分でも思うが、フーカの前では自然にこぼれる言葉を止められない。
 実際、そうだねと返してくれる彼女にはそれを許されている気がしてまたほっとする。
 雨は止まない。それでも一緒に居られるのだから構わないんだけど。
 ぱたぱたと音がする足元では跳ねた雨が小さな水たまりを作り、さらに飛び散る水滴が靴にシミをつくる。
 浸水浸水、と観察しているそばでふるっとフーカが震えた。
「どうしたの? 寒い?」
「うん、ちょっと冷えちゃったかも」
 服の上から両腕を擦っている。肩にかけてあげられるようなものは着てないし、手っ取り早く暖める方法はあれしかない。
「じゃあ」
 ぎゅ、ソウの右手がフーカの左手を包む。普段フーカから流れてくる体温が今はやはり鈍い。俯いて少し赤くなった頬に、これで少しは温まるといいんだけど、と笑う。
「止まないねー」
 声の調子を変えずに再び空を見上げる。流れる雲は変わらず重たそうで、まだここから抜け出せそうにない。
「あれ、さっきまで何の話をしてたっけ」
 飛んだ時間を取り戻そうと記憶をたどってもぼんやりとしている。
「ねえ、フーカ」
 ソウの横で、いまだにフーカは俯いてた。というより、固まっている。
「……フーカ、ちょっとはあったかくなったかな?」
 頬をつつかれてフーカはびくんと反応するが、重なった視線は一瞬で反らされてしまった。
「フーカ? すごい真っ赤だけど」
「……うん、わかってる」
「わかってるじゃなくて……あ、照れちゃったのかな」
 ふふふと笑ってつないだ手を持ち上げて茶化す。少しだけ、フーカの身体が揺れる。
 が、そこで解放なんてしてあげない。
「じゃあこうしよっと」
 二人の手はひとつひとつ指を絡め、手のひらを密着させ、もう離れない。
 いっそう赤くなりまた俯いてしまったフーカの顔、見つめるソウの顔。
 それはお互いには見えず、広がっていく水たまりだけがすべてを知っていた。


おわり








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