02
───それが。
それがこんな奴だったなんて。
さっきの顔なら、きっとモテているだろうに。
「あのさ、こんな・・・あんま喋ったことないのに悪いんだけど・・・・」
宮原はいつもの宮原で、さっきと同じ態度で俺を見た。でも不思議と、いつもの暗さが感じられなくなっていた。
「今晩だけ、泊めて欲しいんだ。」
「ここが俺ん家ね。」
俺はそう呟いて、エレベーターに乗り込んだ。宮原はマスクを取っただけで、俺の後をついてきた。
マンションなので廊下を歩き、部屋の鍵を開ける。
両親は海外に長期出張中、兄貴は成人して滅多に帰ってこないので、俺用の家になっていた。
そういえば、友達を呼ぶのは久しぶりかもしれない。5月くらいに南条が来ただけだ。確か。
「───で、理由を聞こうか。」
俺はドカッとソファーに腰かけた。
そう、さっき・・・「なんで?」と聞き返したあと、渋ってから「話すと長い」と言うので、とりあえず連れてきたのだ。
宮原が少しためらっていたので俺の隣をポンポン、と叩くと大人しく座った。
「あーっと、ちょっと重くなるんだけど・・・軽く聞いていいから。」
宮原は困ったように笑った。
俺が首を傾げつつもうなずくと、決心したように口を開く。
「俺の両親、小3のとき離婚してるんだ。で、今は父さんと2人で住んでる。・・・一応、」
一応?ってか、軽く聞ける内容なの、これ。
ちらりと宮原を見ればうつむき気味で、でもどこかこなれた風に、諦めたように淡々と言葉を繋いでいた。
「・・・でも中3の始めくらいから、父さんが女の人を連れ込むようになって。それが最近はエスカレートしてくから、その・・・帰りづらくなっちゃって。」
宮原は控えめに顔を上げた。
その目はもう呆れたようで悲しそうで、どこか、捨てられた子猫なんかを想像させた。
「それであの・・・寝不足だから、寝たいんだけどお金もないし・・・ソファーでもなんでも、寝れるとこ貸してくれるだけでいいんだけど。」
・・・・・・大分、宮原の印象が変わった。
あの、人と関わりたくありません、みたいな雰囲気を出していた宮原はもういなくて、まるで「すがらせて」とでも言われてるみたいだった。
俺は宮原に向き直る。
こちらを窺う視線を、直視する。
俺は得意の笑顔を、張り付けた。
「ん、いいよ。」
ほっと、宮原が息を吐くのがわかった。
同情とかじゃなくて、こいつを保護してやりたいみたいな、そんな感情が渦巻いているのがわかる。
まだちゃんと理解できてないし追い付けないけど、宮原が「辛い」って言ってるのはわかったから。
「晩飯は食った?着替えは?」
俺は自然と緩む頬を締めながら、宮原に首をかしげる。
「あー・・・食った・・・。着替えはないけど、あの・・・ホント、寝るとこだけでいいから」
「いいよ、別に。寝不足なんだろ?早く風呂入って寝るといいよ。ベッドの方が寝れると思うし。」
よく見れば、前髪とマスクでうまく隠れていたクマが見える。多分かなり寝ていないんだろう。
親父さんが女連れ込んでるって言ってたし・・・ろくに寝れる状況じゃないんだろうな。
だから、なんて。
「っ・・・あり、がとう・・・」
「・・・うん、」
ちょっとこいつを、甘やかしてみたい、なんて。
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