01
結局、"1日だけ"とかそういうのは、繰り返し使われていくのだ。
でもその時の俺は、そんなことを知らなかった。
知らないままに、捨て猫を拾ってしまったんだ。
「志摩ー、俺たち帰るけどどうする?」
「あー・・・まだ残るわ」
「そっかあ」
「じゃあなー」
俺は手を振る友人たちに軽く手を振り返した。
友人の背中が夜の街に溶け込むのをボーッと見つめる。とくにやりたいことがあったわけじゃない。
現在の時刻は夜9時。
さっきの最初に俺に話しかけてきたやつ、南条(ナンジョウ)とはよくつるんでるし、学校とクラスも一緒なのでわりと共に過ごす時間が長い。それでも程よい距離を保てる奴だから、いい奴だと思う。ってか、いい奴なんだけど。
例えば、俺が明らかに染めてある茶髪によく「感情が乏しい」と言われる仏頂面で、しかも授業サボったり夜遊んだりしているお陰で「不良」と言われるのにつるんでいてくれたり。
はたまた怪我した奴を保健室に運んだり。そこで手当てしてやったり。
あるいはクラスに馴染んでいない地味・・・ってより、暗い?奴への態度も普通だったり。
挙げれば沢山あるので、もちろん南条はモテている。女にも、男にも、だ。
その男にも、ってのは俺にもちょっと当てはまって・・・・・・
たまに、ちょっと釣ってるんだけどね。
まあ、さっきも確認した通り時刻は夜9時。一番暇な時間だ。
しかも、明日は金曜日なのでまだ学校があるときた。
萎えちゃうなぁ。
俺はイヤホンを耳に突っ込んで、ゆっくりと足を進めていた。向かうは駅だ。
駅の周りは便利にできているので、暇を潰すにはもってこいだ。
家に帰ってもすることねぇし。
だから、駅の近くでまずはコンビニに入ろう、とか考えていたんだ。俺は呑気に。
「あっ、の・・・・・・・」
小さなその声は、イヤホンをしていなくても聞こえにくかったと思う。
あれが聞こえたのは奇跡だ。
「は・・・・?」
いきなりの声にどうしたものかと思いながら振り返る。
そこには・・・───俺より5cmくらい低い、多分同い年くらいの男子が立っていた。
なんか見たことあるような・・・・・・あれ、制服が同じだ。
そいつの顔をじっと見つめる。ちょっと躇っているように揺れる瞳と、この距離でもわかるくらい長い睫毛、綺麗な眉、薄い唇・・・・・
学校にこんな・・・男でもみとれるくらい綺麗な顔したやつ、いたか?
いや、なんか見たことが・・・・・・・
「あの、志摩・・・くんだよね?」
長い前髪は脇に控えめに留めてある。髪色はくすんだ茶色だが、多分地毛だろう。
ってか。
「俺のこと知ってんの?」
確かに、不良って言われてるからぼちぼち知名度はあると思うけど・・・・・まだ高1なんだよなぁ。
見るからに先輩、って感じではないけど。
俺の言葉に、前髪くんは少し目を見開いた。あんまり動かないあたり、俺と似てる。
「えっと・・・同じクラス、なんだけど・・・」
「え、同じクラス?」
誰だ?さすがに9月なんだからわかるぞ。
「あー・・・じゃあ、これならわかる?」
前髪くんはそう呟くと、ポケットからマスクを取り出した。
それを着け、ピンを無造作に外す。留めてあった前髪が、はらりと落ちる。左目にかかったそれは、マスクの半分ほどまであった。
「あ・・・・」
俺は思わず、珍しく、目を見開いた。
そうだ、思い出した。
この髪は、
「宮原・・・?」
同じクラスの、クラスに馴染んでいない奴。
寝不足なのか休み時間は大体机に突っ伏していて、体育では動かない。たまに学校を休むし、放課後はよく図書室にいるらしい。
一歩、違うだけだ。
サボる授業と学校に来る回数、放課後にいる場所が違うだけ。
ほとんど俺と同じじゃんって、思ってた。
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