7 冥界のとある牢屋の中で一人の妖怪が悲痛な声で泣いていました。 彼は冥界に住む妖怪でありながら魔界に住む美しい妖精を愛し、愛を貫きたいがために冥王に逆らってしまい反逆罪で囚われていました。 「っ……ジェシカ、すまない。 何の罪もないあの子は……私の娘はっ……私の血のせいで、殺されるのか……!」 先日、人間が訪れて「貴方がジェシカの父親ですか。同じ体質……」と特に驚くことなく何故か悲しい表情をしたのでジェシカについて話を聞いたのです。人間はついでにとジェシカの母親は既に冥王の計らいによって殺されていることを教えてくれました。そして彼は「何で魔界なんかに……冥界にいれば殺される必要なんてなかったろうに」と感情のない声音で言っていました。彼の冷めた金の目は何も写していませんでした。 「嗚呼、あの人間が娘を助けてくれないだろうか……っ」 * * * 炎で囲まれた陣の中心にジェシカは横たわっていました。身動きが取れないどころか徐々に妖力を削られていくようです。 提灯を持った橙の髪をした青年ジャックはジェシカを視線の端に捕えながらこちらに駆けてくる二人の方へ体を向けました。 「ジャック!」 「遅かったですね。……知り合いですか?」 舞がジェシカを見た瞬間に表情を固くしたのを感じてジャックは明に聞きました。明は少し哀しそうに頷いて「久遠を呼んだ方がよかったかも」と小さな声で呟きました。久遠なら彼女に刀を向けることも殺すことも舞よりは確実に出来るでしょう。 「ジャック、陣を解いて」 「顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」 「……あたしは、妖怪を許さない!」 いつもなら妖怪を前にするとうっすら笑みを浮かべて愉しそうにハルバードを振り回す舞が今は妖怪に対する憎悪でジェシカに向かおうとしていました。明は慌てて舞の腕を掴んで止めました。 「よぉ」 その場にそぐわぬ明るい声に3人が振り向けばそこには刀を携えた無表情の久遠と引っ張られるように連れて来られた来夢がいました。 来夢を見たジャックは怒気をあらわに久遠を睨め付けどういうつもりかと問いました。 「言うこときいてくれたら来夢の記憶を消してやんよ」 「久遠くん!?」 この場の状況についていけていない来夢は久遠の能力使用宣言に驚いて責めるように声を上げました。しかし彼は「ごめん、黙ってて」と来夢を見ることなくジャックと向き合ってどうする? と挑発しています。鈍感な来夢がこの状況をどう捉えたかはわからないが来夢をいちばんに想うジャックには従うしかないのでした。その反応に満足したように久遠は微笑みました。 「俺とジェシカ以外を囲むように陣を張って」 「…………何をするつもりですか?」 「あんたらに出来ないから俺がやるんだよ」 「あたしは殺れるわ!」 久遠の言葉に舞は食ってかかるが彼は気にかけるそぶりもなく来夢にジャックの傍に行くよう促し、ジャックは舞と明に近付きました。そして提灯を揺らし久遠とジェシカ以外の4人を囲むように陣を作りました。そのおかげでジェシカを囲う陣がなくなり、久遠は横たわる彼女の側に膝を付きました。 「くおんさま?」 「……最期にしてほしいこととか、ある?」 ジェシカはゆっくり首を振ると最期に久遠が見れて良かったと力無く笑いました。 「あ、名前……」 「ん?」 「呼んでほしいです」 あとなでなでもしてほしいです、と続けたあと「わらってください」と久遠の頬に手を伸ばしました。 「ジェシカ」 名前を呼んで優しく頭を撫でた久遠は微笑んで刀を 「久遠さま、大好きです!」 「……ありがとう」 明るく笑うジェシカに突き刺しました。 |