3 あれから数日が経ちました。 魔界監獄に入りたがっていた久遠は黒月芽瑚に諌められてしまい、リュウの元で働くことになりました。 「はい、これ」 「……余計なことしてないよな?」 「残念なことに魔法防御しか付けてませーん」 「ピアス?」 いつものようにバイト(雑用)に来ていた来夢は久遠が渡されていた赤いピアスと自分の指輪を見比べました。その来夢の様子に久遠が「指輪は客、ピアスは従業員」と簡単に説明をしてくれました。 この魔王城に入るには赤い石が付けられたアクセサリが必要なのです。それらは魔王が直々に作るもので城に入るための許可証の役割を果たしています。魔王のみ遠隔操作で壊すことも可能です。 「来夢の指輪にも魔法攻撃を無効にする防御魔法が施されてるよ」 「え、初耳です」 「物理防御は付けてやんなかったのかよ」 久遠は機嫌が悪いのか、ピアスがそんなに嫌なのか、リュウに対して少し冷たいです。 来夢がそんな危険な目に合ったらジャックはきっと彼女を軟禁するでしょう。魔王城に行くことにすらあまりいい顔をしていないのですから。それをわかっていて物理防御の魔法を施していないリュウを久遠は不審に思いました。 「あ、それよりペンダント返して」 「…………」 「ペンダントは何なんですか?」 「あんたは知らなくていいよ」 久遠はリュウの手にペンダントを渡した手で来夢の頭を撫でました。それを見たリュウは勢いよく久遠の手を掴み、来夢の頭から離れさせました。 「よ、余計なこと、」 「してねぇよ」 二人のやり取りに来夢はしばし考えました。しかしすぐに思い当たり久遠を見上げて声を上げました。 「能力使おうとしたの? どうして!?」 久遠が目を逸らすと同時に窓からジェシカが飛び込んで来ました。ななななんですか! 今のはッ!? とジェシカはただならぬ様子で久遠と来夢に詰め寄りました。なでなでだなんて……、と両頬に両手を当てて部屋中を飛び回っています。 普段、自分から他人に触れようとしない(むしろ距離を取っている)久遠がジャックの嫁である来夢の頭を撫でるという行動にジェシカは混乱しているようです。 「ジャックさまはご存知なんですか?」 「何を?」 「知らないんじゃねぇの」 一人で空回っているジェシカの問いに来夢は首を傾げ、久遠は興味なさげに答えました。 ジェシカはわなわなと肩を震わせてキッと来夢を睨むと大声で叫びました。 「不埒です!酷いです!見損ないました!!」 「え、私?」 本気でわからない来夢は頭上に疑問符を浮かべています。 ジェシカは久遠を見上げ泣きそうになりながら喚いています。 「久遠さまは人のものばかり好きになるのですかぁ!」 「あー、そうかも」 「否定しろよ!」 黙って成り行きを見守っていたリュウは思わずツッコミました。 久遠は初恋から現想い人まで必ず誰かの恋人だったので否定はできません。彼が否定してほしいのは来夢のことなのですが。それをわかっているのかいないのか、久遠はジェシカにでこぴんをかましました。 「ひぎゃあっ!」 「冗談だよ、バーカ」 「……いたいですぅ」 額を押さえて涙目に上目遣いで久遠を見上げていたジェシカは安心したように微笑みました。 |