2 森山久遠が魔界監獄に入りたいと言ってから数日が経ったある日のこと。 魔界の王様である樋口リュウは魔界監獄に来ていました。 この監獄は魔界に住む危険度が高く悪意がなくても他人に害をなしてしまうような魔人や魔物を軟禁する施設でもあり、犯罪を犯した罪深き者に罰を与える処刑場と捕らえておくための牢屋も兼ねていました。 「久遠が此処に入りたいんだって……」 「まぁ! 久遠様はどうなされたのです?」 「気でも狂ったのか?」 リュウの呟きに両目を包帯で閉ざされた少女は驚き心配そうに言い、その隣の部屋の大柄の男は可笑しそうに笑いました。二人の反応を見てリュウは何も答えず俯いてしまいました。 「リュウ様、どうか落ち込まずに久遠様を説得してあげてくださいまし」 「そうだぜ! あの坊っちゃんは自分を戒めたいだけだ」 「そうなのですか?」 「いや、知らん!」 自分を慰めようとしている二人がなにやら喧嘩しそうになっていることに気付いてリュウは慌てて顔を上げました。 「そろそろ城に帰って……仕事しよう」 「おう! 頑張れよ!」 「また来てくださいますか?」 「うん、暇が出来たら二人に会いに来るよ」 リュウが微笑んで答えると少女はぱあっと表情を明るくし、大男も顔には出さずとも嬉しそうでした。 * * * リュウは魔王城の執務室の扉を開けて中にいた3人を見渡しました。監獄からの帰り道にリネに会っていたので来夢がいることは知っていました。リュウは久遠を見てあからさまに溜息を吐きました。あからさますぎてわざとらしくなりました。 「監獄の件は諦めて」 「嫌だ」 「我が儘」 ふん、と顔を逸らす久遠にリュウは早くも説得を諦めかけています。 そんな二人の会話を聞いてジェシカは不安そうに久遠の周りを飛び回っていました。 「久遠さま、監獄に入るのですかぁ?」 「監獄?」 「ジェシカと会えなくなるじゃないですかぁ!」 「会いたくねぇよ」 来夢は聞き慣れない言葉に小首を傾げてリュウを見るも彼は笑って返すだけで教えてくれませんでした。 ジェシカは必死に久遠に抗議するも虚しく厳しい言葉を返されます。突き放す言葉の冷たさを来夢は不思議に思いました。 「(こんなに冷たい人だったかな?)」 「ねぇ、来夢ちゃんにはジェシカの顔は誰に似てるように見える?」 リュウに言われた質問に来夢は意味がわからないという表情で返せば、ジェシカが笑顔で説明してくれました。 「ジェシカはね、その人のいちばん大好きな女の子の顔に似て見えるんです」 「え?」 「ね、ライムさまには誰に見えていますか?」 ずい、と顔を近付けてきたジェシカに来夢は戸惑いながら幼馴染みに似てると答えました。ジェシカは満足したように微笑んで久遠の方へ飛んで行きました。 「万人に愛されそうですね」 「そうでもないよ」 来夢の零した言葉に肯定ではない言葉を返したリュウはどこか哀しそうに明るく振る舞う妖精の少女を見ていました。 彼女をいちばん大好きな人しか彼女の素顔を見ることが出来ません。そしてそんな人は未だ彼女の前に現れたことはないのでした。 |