夜半を過ぎても、アンバーは眠れなかった。

━━だから子供は嫌いなんだ。全く遠慮がねえ。

ベッドに横臥するも、溜息が増えて行くばかりだ。

━━どうしてああもずかずかと、俺に関わるんだか。

静まり返った空間だからこそ、その静寂が耳を劈いた。



子供だ、と、言い放った後。罵声や暴力を覚悟していたアンバーは、驚倒した。

ビオレッタの激しい慟哭に。

「ボク…、大人になったら…、仕事を辞めていいってパパに言われてるんだ…。」

彼女は時々しゃくり上げながら、尚も涙を流し続けた。

「ねえ、教えて…?どうしたら、早く大人になれるの…?」

縋る様な、その大きな瞳。

「もう…、嫌なんだよ…。もう…、やりたくない…。ボクはあんな事…、ホントはしたくない…!」

ぼろぼろと零れ落ちる彼女の涙を、アンバーはただ黙って見つめているしか出来なかった。






翌朝。

エヴシェンから連絡を受けたパラッツィが急遽、ビオレッタの下に戻って来た。

彼女を襲おうとした男は翼下の者で、その理由は痴情の縺れという、何とも情けない事の終焉であった。

「良くやった。」

パラッツィはエヴシェンらに謝辞を言う。

「特に…、ああ、ええと、名前は何だったか。」

「クォーザイト・バルシュです。ドン・パラッツィ。」

「覚えておこう、クォーザイト。」

エヴシェンらは下がった後のパラッツィとアンバーの二人が残された部屋で、彼はまるで殴り書きの様な一枚の小さな紙を差し出された。

「褒美は、これだ。」

アンバーは素早く目を走らせる。

「な…!?」

そして、声を上げた。

「これは…、事実なのか…!?」

「無論。昨夜、俺が偶然仕入れた情報だ。」

パラッツィの目的は襲われたビオレッタを心配しての事などではなく、この情報をアンバーに届ける為であった。

「誠に感謝致します。ドン・パラッツィ。」

彼はそれを悟り、深く頭を下げた。

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