「ところで、これって何?」
ヘルガヒルデが持って来た荷物を開け、マクシムは中身を手に取った。
「携帯口糧。片手で食べられるから便利なんだ。」
「こんなんで栄養摂れんのか?つーか、これ美味いの?」
「不味いよ。と言うか、味しない。腹は膨れるけどな。」
「…忙しいのは分かんけどよ。ちゃんと飯は食え。」
「出来る事ならば、僕だってそうしたいよ。」
マクシムは席に戻り、改めて料理に目移りしている。
「そういや、今日って何の集まりな訳?」
「ギルの就職祝いと、アンジーの懐妊祝い。言わなかったっけ。」
「え、マジか!そりゃダブルでめっちゃめでたいな!」
マクシムは二人に向き直るとグラスを持ち上げ、祝福の意を表した。その後、リュユージュにも視線を向けた。
「ついでに、お前の合格祝いだな。」
「ついでって何だよ。」
「ちなみに何級?」
「六級だよ。マックスは一級持ってるんだろ?だから旗艦は君に任せる予定だからな。」
「マジで?それ、俺のが偉いじゃねえか。」
「馬鹿なの?階級は僕の方が上だろ。」
「お前って本当、可愛くねえよな。」
「君に可愛いって思われたくないからそれでいい。」
マクシムはリュユージュの肩に手を回し、ぐいっと引き寄せた。
「お前さあ、しんどい時は無理に笑わんでいいって言ってくれたろ?逆にお前はもうちっと、表情を和らげてくれてもいいんじゃねえか?」
━━マックスなら人当たり良いし盛り上げてくれるだろうからと呼んだけど、失敗だったかもな…。
こうして宴の夜は、更けて行った。
「まさかこんな事になるとは…、申し訳ない。」
宿舎の玄関で、リュユージュは二人に頭を下げた。
「大丈夫だって!止めてくれよ、そんなの。」
ギルバートは慌てて謝罪を静止しようとする。
「そうよ、気にしないで。とても楽しかったわ。」
アンジェリカも綺麗に澄んだ声で、彼を宥めた。
「私、酒場で働いてたから良く知ってるもの。若い男の人ってだいたいみんなあんな感じよ。」
予定より早目の解散の流れとなった訳だが、それはマクシムが酔い潰れてソファで爆睡してしまったからだった。
「本当は、出産祝いにも伺わせてもらいたかったんだけれども。でももう今後、個人的に会う事は出来ないと思うんだ。」
リュユージュは頭は上げたが、目は伏せたままだった。
「どうしても、僕の立場的にね。」
「そ、そうか…。それはとても残念だけど、仕方ねえよな。」
ギルバートは悲しそうに肩を落とす。しかし彼は直ぐ、無理矢理にでも笑顔を作った。
「そりゃ、身分が全然違うもんな。こんな庶民━━と言うか、俺はそれ以下だし…。」
「はあ?」
それを聞いたリュユージュは視線を合わせて反論する。
「そうじゃない。まあ尤も、ギルの最初の階級は兵曹だからな。だからどちらかと言うと、僕より君の方が分が悪くなってしまうんだ。」
リュユージュは右手を差し出した。別れの挨拶だと勘違いしたギルバートは、躊躇いつつもそれに応えた。
「公表は、もう少し先なんだけれど。」
彼等は堅く、握手を交わす。
「国防軍海兵隊の最高総司令官。僕なんだよ。」
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