勤務を終えて宿舎に戻ったリュユージュと共に、ドラクールは二人で食卓を囲む。
「なあ。レオンハルトって奴、知ってるか?」
その言葉に、ぴたりと、リュユージュの手が止まった。
「…何で?」
「昼間のデカいオッサンに話したら、レオンハルトって名前の奴じゃねェかって言われたんだ。俺、そいつを感じるんだよ。」
「感じる?何それ。」
「オッサンにも聞かれたけど、言葉で説明出来るもんじゃねェんだよ。ただ、意識というか気配というか…感じるとしか言いようがない。」
「ふうん。レオンの幽霊でもいるって事?」
「俺は多分、そういう類のものは視えないし感じないと思う。『死んだ人間』とは関われないんじゃねェかな。」
リュユージュの冗談に対して、ドラクールは極めて真剣に返答した。
「つーか、そいつもう死んでんのか?」
「いや、生きてる。…と、思うよ。恐らくね。」
リュユージュは食事を再開させる。傍目にはただそれだけに映るが、当人は話題の所為で味も何も全く感じられないものであった。
「レオンの消息を知る術が僕にはないから、分からないけどな。」
ドラクールは暫し黙考した後、口を開いた。
「もしあんたが知りたいんなら、あれ出してくんねェか?」
「あれって?」
「其処に在る、そいつの剣だ。」
━━ブレイアム提督が余計な事を喋っただけかと思ったけど、違うみたいだな…。
リュユージュはその瞳に、僅かな動揺を浮かべた。
「うーん…。」
ドラクールはおずおずと手を伸ばし、指先で柄に触れてみる。
「今は何でもねェな。昨夜は触れないくらい怖かったのに。」
彼は柄を握り、剣を持ち上げた。そして仰ぎ見る。
「君は一体、どうしてそれがレオンのものだって分かったの?」
「そんなはっきりしたものじゃねェよ。あのオッサンに言われなきゃ、俺はこの剣の持ち主の名前も分かんねェもん。」
ドラクールは目を伏せ、剣を元の場所へ戻した。
「俺はそいつの、『恐怖』『絶望』『悲壮』…。そんな意識を感じただけだ。」
第一級国家反逆罪の有罪判決を受けて国外追放となったレオンハルトは、其れらの感情を間違いなく抱いていた事だろう。リュユージュは素直に、ドラクールの言葉を疑う事を止めた。
「君の事、役に立たないなんて言って済まなかった。」
「いや、これは俺の本分じゃねェよ。そんだけ、こいつの思念が強いって事だろ。」
━━レオンは…、いつか僕を許してくれるだろうか…。
当然、ドラクールは腰を屈めてリュユージュの頭を乱暴に撫でぐり回した。
「俺が悪かった。言葉を選ばないで直で伝え過ぎたな。」
彼は八重歯を見せ、困惑した表情をする。
「そんな、泣きそうな顔すんなよ。」
「馬鹿じゃないの。僕の顔はいつでも同じだよ。」
リュユージュはくるりと背を向け、食事の片付けを始めた。
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