「と言うか。もしかして君、それでガイ・マーベリックの三人の子供達を摩天城に逃したの?」

「ああ。そうだ。」

リュユージュの中で、一連の事件が漸く一本の線で繋がった。

「成程。随分と面倒な事をしてくれたもんだ。」



「俺には、お前の事が分かんねェよ。考えてる事も、言ってる事も。」

ドラクールはむっとして眉を顰めながら、髪の毛を掻き上げた。

「大切なものを守る為に戦うって言ってたよな。その為の戦争なのか?」

「それ、言っただろ。僕は賛仰する人物に天辺を取って欲しいんだ。だから領土の侵犯や無益な虐殺をする事が目的ではないし、況して君の言う『不幸な子供』を生み出したい訳でもない。」

「やっぱり良く分かんねェ。だいたい、この国の王はフェンヴェルグだろ。それが不満だってのか?」

「聖王の治世に不満などないよ。僕は正直、全ての人間が平等に暮らせるような世界はないと思ってる。宗教、思想、概念、価値観、倫理観、厭世観━━それらを統一する事など、不可能だからな。」

「難しい事は分かんねェけど、世界が滅茶苦茶になるのは間違いないんだ。それを黙って見てるだけなんて、俺はしてらんねェよ。」

「君はもっと世界を知って、視野を広げるといい。そうしたら、僕の言葉の意味が理解出来ると思う。」

深夜にも関わらずすっかり目の冴えてしまった二人は、会話を続ける。

「お前、戦争に善も悪もないって言ってたけど、だいたい何が原因で最初の戦争になったんだよ?」

「端的に話すと、フェンヴェルグ聖王の父君であるダーヴィッド前王が、当時のヴェラクルース一族の宗主、つまりルーヴィン国師とベネディクト将軍の祖父ジークフリート上皇を懐柔したところから始まる。」



━━八十年程前のこの世界は酷く荒廃していた。

何せ、秩序が無かったんだから当然だ。今夜眠る場所もない、明日食べる物もない。大衆はそんな暮らしを強いられていた。

ダーヴィッド前王は、そんな世界を改める啓示を受けて立ち上がったと聞く。

何の救いもなかった世界には、ヴェラクルース神使教は唯一の拠り所として広く浸透していた。言ってしまえば、神に祈るだけなら無料(タダ)だからな。

宗主のジークフリート上皇を抱え込めば数多の信者が漏れなく付いて来る。

世界統一の近道にと、ダーヴィッド前王はヴェラクルース神使一族に戦を仕掛けたんだ。



「ああ。それ、ベネディクトに聞いたぞ。戦わずに負けを認めたって。」

「その通りだ。我々一族は不戦敗を受け入れ、全ての信者はダーヴィッド前王に属した。」

「だったらお前が恨むのはダーヴィッドとフェンヴェルグじゃねェの?」

「僕は彼等を恨んでなんかいないよ。寧ろ、上手く共存出来て来たと思っている。」

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