事務机に戻ったリュユージュは、再び仕事の書類を手に取った。自分の一挙一動を無言で凝視し続けているマクシムの含意に観念し、彼は漸く説明を始めた。
「先程の書類は借用書だよ、金を都合してもらったんだ。しかし到底、僕一人で返せる額じゃない。」
「つーか、そのケガは?」
「家を勝手に売ったからね。それにキレたヒルデに殴られただけだ。」
「え!?家って…、あの豪邸をか!?」
マクシムの脳裏に、門の外から見た白亜の邸宅と壮大な敷地が呼び起こされた。
「だからお前、ここんとこずっと宿舎にいんの?」
「そうだよ。いくら金が無いって言っても、立場的に僕がそこらで野宿する訳にもいかないだろ。」
マクシムは、単純に利便性の問題でリュユージュが宿舎に寝泊まりしているだけなのだろうと勝手に解釈していたのだが、誤りだったようだ。
「無茶苦茶だな…。」
「無茶苦茶だろうが何だろうが、資金が必要だからね。不平を言うつもりはないけど、国や軍からの支援金だけでは足りないんだ。」
「悪いけど、俺に金の相談すんなよ。無理だからな。」
「そうでもないぜ?」
リュユージュは書類から視線を上げてマクシムに移した。
「君が無給で良いなら、とても有り難い。」
「な…!?い、いや、それはマジで勘弁してくれ!!」
マクシムは焦燥の表情でリュユージュに詰め寄る。
冗談だよ、と、リュユージュは再び書類に視線を落とした。
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