書斎の窓の向こうの夕陽は、雲を茜色に染め上げている。退勤時間を迎えたマクシムは、決意を込めて口を開いた。

「減給…、ならばいいぜ。承知する。」

普段ならばマクシムが話し掛けても一瞥さえくれない場合の方が多いリュユージュだが、その言葉を聞いた彼は瞬時に視線を上げた。

「俺には、奨学金やら何やら、どうしても返さなきゃなんねえ借金があるからな。その他は、最低限の生活が出来る分さえ貰えりゃ我慢するよ。」

マクシムの申し出に対し、リュユージュはまるで呆れ返ったと言わんばかりに手にしていた書類を机に放り投げた。

「至当な俸給の授受。これは僕の義務であり、同時に君の権利でもある。」

彼は指を組んでその上に額を乗せ、深い溜息を吐いた。

「つまり君は、僕に無能で迂愚な将になれ、と。そう言うんだな?」

若干の怒気を含んだ様な口調に、マクシムは返答に詰まった。

「忽諸な者に、一体誰が命を預ける?不佞ならば、努力するしかない。しかし、君はその機会を僕から奪うつもりなのか?マックス。」

俯き加減のリュユージュは前髪に隠した瞳を細めると、再度、溜息を漏らした。

「だいたい、君の年俸程度の金額を節約したところで何の足しにもならないよ。多く見積もって、徹甲弾二発分くらいか?」

「ちょ、お前、酷えなそれ!俺はこれでも同期連中の中じゃ、一番の出世頭なんだぜ?」

マクシムはせめて笑声で、鬱屈とした雰囲気を吹き飛ばそうと試みた。



口調、視線、仕草━━…。

よくよくそれらに注意を払うと、意外な程にリュユージュは感情を表に出しているのだとマクシムは気が付く。

自身の無礼な発言に後悔をするも、弁明こそ更に自体を悪化させると予想したマクシムのそれは、正解だった。






ところで、と、言葉を置くとリュユージュはマクシムに疑問を投げ掛ける。

「国法改正活動の為に君が借金まみれのは知ってるけど、奨学金って?士官学校の?」

「そうだよ。こう見えて俺は成績優秀なもんで海兵学校は特待生だから学費は全額免除だったけど、士官学校は編入だからな。」

「そうなんだ。地元の学校から?」

「いや…、編入って言い方も違えか。まあ、外部入試に合格して普通に入学したんだけどよ。」

マクシムは後頭部に手を当てると、少し困惑した様な表情を見せた。

「俺は子供の頃、事情があってまともに学校にも通えねえくらいの貧乏してたんだ。」

「君は御父上をキャンベル海軍に殺害されたと、ブレイアム提督から伺ってる。」

「ああ、その通りだ。」

リュユージュも詳細までは知らない、マクシムの過去。彼はそれを極めて冷静に語り始めた

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