「それにしても貴方の態度、意外だわ。てっきり、ヒルデから色々と聞いてると思ってたのに。」

「はァ?何の事だ。俺ら、そもそも昔っからあんま仕事の話しはしねェもんよ。お互い、ちんぷんかんぷんなんでな。」

「違うわ。私が、どうやって此処まで来たのかを、よ。」

ベネディクトは真正面のヴィンスから視線を逸らすと、光り輝く鮮かな金色を帯びている雨上がりの茜空を見上げた。

「もうこの手は、汚れに汚れきっているの。許されない程にね。」

「はッ、せめてもの贖罪ってか?そんなん、テメェの為じゃねェか。」

「そうよ。でも、誰も知らない。」






「本当の、私を。」

その妖美な微笑は、何処か寂寥感を漂わせたものだった。






「貴方って案外、数奇者なのね?煙草なんて直ぐ火が付く簡単なものもあるのに、わざわざ葉巻を選ぶなんて。」

そう言うと彼女は退室するべく、ソファから立ち上がった。

「だからこそ、貴方と彼女はとても相性が良いのかしら?」

ベネディクトは振り返らず、後ろ手に扉を閉めて退室して行った。

「おい!ちょ、待て。それ、何か勘違い…!」

既に扉は閉まっている。ベネディクトには恐らく、彼の言葉は届いていないだろう。

ヴィンスは中途半端に上げた腰を、再びソファに深く沈める。同時に、大仰な溜息を落として頭を抱えた。

「…勘違い、でもねェやな。クソったれ。」

誰の耳に触れる事もない、彼の告白。

━━この面倒な一手間が、これまた味わい深いのよ。若いお嬢にゃあ、まだ分かんねェだろうけどな。

ヴィンスは一人、ゆったりと葉巻を吹かした。

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