しとしとと静かにそぼ降る雨は、傘を持たぬ彼女の白茶色の軍服にその足跡を残す。

海面に描き出される数多の小さな波紋を横目に、ベネディクトは海軍の基地を訪れた。

「ブレイアム提督はどちらに?お手空きでないなら、此方で待たせて頂くわ。」

金色の髪を濡らす雨粒も、彼女に限ってはまるで真珠の如し美しさであった。それを払う仕草は優雅そのもので、海兵達は暫し言葉を失っていた。






「よう、将軍。いきなりどうした?珍しいな。」

程無くして、応接室にヴィンスが顔を出す。

「お忙しいところ申し訳ないわね。」

「いんや。暇で暇で、目ェ開けたまんま居眠りしてたぜ。」

そう語る彼は、手にしていた万年筆を懐に仕舞う。言葉とは裏腹に、何らかの仕事を放り出して此処に来たのであろう。



「単刀直入に言うわ。貴方の力を、貸して頂戴。」

「はッ、便所の電球でも切れたんか?」

ベネディクトは彼の冗談には何の反応も示さず無視をし、一通の書類を手渡した。

「何つーか…、いやに具体的な数字と名前だな。」

ヴィンスはカッターで葉巻の吸い口を切り落とすと、険しい表情を見せた。

「本気(ガチ)か。」

「勿論よ。」

彼は微かな溜息を落としながら燐寸を擦ると、葉巻に火を付ける。

「ったくよォ。どーせ俺が嫌だっつったって聖上に泣き付くんだろ?だったら、最初(ハナ)っから俺んトコ持って来る意味ねェじゃねェか。」

「そうよ。良く御存知ね。」

「ご存知もクソもあっかよ、いつもいつも人を顎で使いやがって。一度、テメェの手を汚してみろってんだ。」

にっこりと微笑むベネディクトに対し、ヴィンスは眉間に皺を寄せて睨み付ける様な視線を向けた。

「何が気に入らねェって、そういうトコだっつーの。アイツのが━━、ヒルデんとこの小倅のがよっぽど腹ァ括ってんじゃねェか。まだ若ェってのによ。」

その言葉に対してベネディクトは双眼を伏せると、真剣な声色で言った。

「ええ、その通りね。責任問題が生じた場合に彼は絶対に転嫁せず、全て自身で負って来た事を私は知っているわ。今回も、相応の覚悟をしている事でしょうね。」

「…んだよ、汚ねェな。今更よォ。」

漸く着火した葉巻を吹かす間の、暫しの沈黙。

「結構!」

ヴィンスは自分の膝を、ぱんっと叩いた。

「やってやんよ。完全にとは言えねェが、可能な限りは条件を呑んでやる。」

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