翌週。提督であるヴィンスはフェンヴェルグからの威令を受け、全海兵を呼集。

リュユージュの入隊を正式に告示すると共に、その目的は彼を最高総司令官とした国防軍の結成である旨を公表した。



漸く誂えた海軍の礼装に身を包んだリュユージュは壇上から一礼をすると、マイクを手に取った。

『周知の様に、ヴェラクルース神使軍は水軍を持たずに現在まで来た。しかし昨今の禍乱に際し、既に限界である事を此処で申し伝えておく。』

彼は浅く息を吸うと、言葉を続けた。

『提起している問題として、先ずは時間に猶予が無い事。そして、僕は知識や技術、設備、そして人員等、必要な物を何一つとして持っていない事だ。』

リュユージュは未だ、階級を持たない。胸章は一般兵のものであるし、襟章も肩章も勲章も、何も無い。着用している軍服は、紺色一色だ。

先頃、ヴィンスの書斎で目にした十字軍の正装姿とは対照的に極めて質素であった。

『諸君等の中には、ブレイアム提督を初めとする著名な人物に憧憬や思慕の念を抱き、海兵を目指した者が少なくない事は重々に承知している。』

しかしマクシムの目には己の左胸を飾る幾つかの勲章よりも、壇上のリュユージュの方が遥かに輝いて見えたのだ。

『だが、ここで今、諸君等に懇請する。どうか僕と共に海兵隊として尽力して頂きたい!』

数万もの大衆を惹き付けて心酔させる、その素質。正に、天与の賜物━━カリスマ的人物。

マクシムは感じた興奮を、禁じ得なかった。






彼はリュユージュとの出会いを思い出す。

第一印象は、最悪だった。

破落戸(ゴロツキ)に金を握らせ、忠実な部下であるレオンハルトを襲わせたからだ。

当時のマクシムはレオンハルトに対しては嫉妬心や猜疑心を抱いてはいたが、嫌悪していたというよりは卦体な存在と警戒していたと表す方が正しいだろう。

共に過ごすうちにそういった負の感情が消えて行くと同時に、益々リュユージュに対しての憤りが募って行ったのだ。

しかし、それもキアストス家当主であり十字軍の将官でもあるクラウスの仕業と分かると、マクシムの一方的な抗議に対して極めて寛大な態度を取ったリュユージュに尊敬の意を抱いた。

自分ならば、絶対に無理であっただろうと思うと、それは尚更だ。



更には彼が表情を崩さない理由も隊員の動揺や策戦の混乱を誘わない為であると知る事が出来、上官として非の打ち所が無いと実感した。

自分がリュユージュの片腕として抜擢された事を、マクシムは誇るようにまで変化して行ったのである。

同時に、反逆者として追放されたレオンハルトの心情の片鱗に触れる事ともなり、マクシムは沈鬱な感情を覚えた。

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