━━すっげえ喉渇いた…。

リュユージュはぼやけた視界を鮮明にする為に、クレリックシャツの裾で涙を拭う。

綺麗に畳まれていた自分の軍服の上着を乱暴に引っ掴んで胸に抱えると、覚束無い足取りで帰路に付いた。

━━水…。

鉛の様に重い思考と、肉体。時折襲い来る下腹部の鈍痛だけが、彼を現実に引き留めてくれていた。






『君は痛みに感謝した事はあるかい?』






いつかの、ヘルガヘルデの言葉が谺(コダマ)する。

━━畜生、うるせえな。してるよ。今、してる。



つまり、痛みとは、警鐘なのだ。

しかしそれをベネディクトにより意図的に奪われていたリュユージュは、境界線を越えた先の危険に曝されていても認識する事が出来ずにいた。

身を守る術を知らなかったし、そもそも必要だと感じた事すら彼にはなかったのだ。






リュユージュは漸く自宅に辿り着いたものの暫く動けず、靴も履いたままで倒れ込むように玄関の床に寝そべった。

━━今の僕を見たら、君は何て言うんだろ…。下劣だと、見限られてしまうかな。

用量を遥かに超えて使用された薬物は、彼の意識を酷く混濁させていた。

普段ならば、例え他人に聞かれる心配が無くとも絶対に吐かない泣き言が唇から漏れる。



「リー。ごめん、…会いたい。」



しかし、それもただ自分の都合の良い慰安にしたいだけに感じたリュユージュは、沸き上がる感情を飲み込んだ。






「…っく、痛え…。無茶苦茶しやがって…!いくら何でも、好き勝手し過ぎだろ。」

代わりにルーヴィンへの暴言を吐くとリュユージュは投げる様に靴を脱ぎ、半ば這いずりながら浴室へと向かった。

シャワーから吐き出される水を直接、彼はがぶ飲みする。渇きが落ち着くと、顔や髪に付着した埃を洗い流した。

━━ふざけんなよ、レーヴェ。お前が与えた安寧なんて、結局は全て偽物じゃないか。

その時。拭い切れずにこびり付いていた体液の残滓が、どろりと内腿を伝って行った。

━━僕は、運命の元で温和しくなんかしてないぜ。

暫し、彼はこの不愉快な感覚を忘れられずに過ごす事となった。

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