観覧注意


ルーヴィンは衣擦れの音をさせながら、大股でリュユージュの目睫の間に迫った。

彼を壁際まで追い詰めると、無遠慮な態度でその両頬の辺りに勢い良く音を立てて両手を付いた。

小柄なリュユージュに接近する為、長身のルーヴィンは腰を折る。肩を滑り落ちる美しい金髪から微かに漂う、煙草の残り香。
 
「私を欺こうなど、お前には無理だよ。」

「欺く?一体、何の話しですか。」

僅かに身動ぐリュユージュを警戒してか、ルーヴィンは壁に肘を突く。互いの唇が触れてしまいそうな程の、距離。

二人の間に緊張が走る。

続く沈黙と、暫しの睨み合い。



ルーヴィンはゆらりと背を真っ直ぐに伸ばすと、体を離して右手で双眼を隠した。その歪んだ口角から、溜息の様な苦笑が漏れる。

「城下町での連続殺人の犯人はお前だろう?」

指の隙間から覗く開かれた碧眼からは、飢えた猛獣の如く鋭い光が放たれている。

「ええ、そうですが。」

紺碧色の呪縛をリュユージュは事も無げに躱すと、その言葉を是認した。

「だからどうした。僕に刑罰を与えたいのならば、告発すれば良い。簡単に断頭台に送れるぜ?」

居直る様な荒涼とした態度に、ルーヴィンは眉を下げる。

「私は別に、お前を裁きたい訳でないよ。」

その言葉と同時に、ルーヴィンは真正面からリュユージュの蜂蜜色の髪を鷲掴みにした。

「な…っ、」

「何故、運命に抗う?」

リュユージュはこの時点になって漸く、自分の体の異変を知った。動悸と目眩だけで無く、振り払う腕にも踏み込む足にも非常に力が入り難く感じた。

ルーヴィンはリュユージュの髪を乱暴に引っ張り上げると、彼の顔を強引に自分の方へと引き寄せた。

「レーヴェ、止め…っ!んぅ…っ!」

そして、その唇に噛み付く様な接吻をする。

突然の不快な行為に、全身が粟立つ。意識を捉られ過ぎていたリュユージュは勢い余って、ルーヴィンの舌によって喉の奥に押し込まれた錠剤を飲み込んでしまった。

「先程の分量で充分だとは思うが…。念の為、追加で飲んでおいてもらおうか。」

リュユージュは咄嗟に喉に指を突っ込み吐き出そうとするも、突然、視界が一瞬暗転した。ぐらりと天井が揺れ、前後が不覚になる。

「あ…!?」

続いて麻痺に似た感覚に襲われた彼は直ぐに四肢の自由がきかなくなり、崩れ落ちる様にしてルーヴィンの胸に体を預ける形で寄り掛かってしまった。

「最初のものがやっと効いて来た様だな。やはり、お前は薬物耐性が凄い。」

蜂蜜色の癖毛に鼻を寄せると、囁く様な呟きを耳元に落とした。

「尤も、『薬事の傑士』であるこの私が長年、調薬して来たのだから当然の結果だな。」

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W.A


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