初志貫徹
━━そうだ、もう。
ある朝、ドラクールは固く決意する。
━━誰にも、あんな事をさせては駄目だ。二度と。
強く握った拳を、再び握り締めた。
━━誰にも、禁忌を犯させては駄目だ。
拳の上に一滴の透明の雫が落ちた。
それが汗か涙かは、当人にしか分からない。
夜。
月明かりの下、ドラクールは足早に森に向かっていた。
姉弟の居住地にたどり着くと、相変わらず彼は歓迎された。
「どうしたの?」
普段にも増して重苦しい空気を背負ったドラクールに、リサは訝しげな視線を向ける。
「両親や手を貸してくれる大人はいないのか?こんな生活をしている理由は何だ?」
彼は意を決して真っ直ぐにリサを見つめ、これまで疑問に思っていた事をぶつけた。
両親が居らずそれ故に貧困に喘いでいるのだ、と。
親戚や街の者は何故誰一人として助けないのか、と。
突然の詰問に、リサはかなり驚いている。
目をまん丸く見開き、口はぽかんと開けられていた。
「本当に、あたし達の事知らないの?」
しかし彼女はすぐに目を細め、口をきつく結んだ。
無言で嘘偽りなく頷くドラクール。
やはりそれを無言で凝視するリサ。
「両親はいない。母は早くに病気で亡くなった。」
静止したまま、彼女の言葉に耳を傾けていた。
「父は、殺された。」
僅かに心が震えたが、それでも彼は努力して無表情を保ち続けた。
「罪人として処刑されたんだ。だからあたし達を助けてくれる大人なんかいないよ。」
リサの瞳から零れ落ちた真珠の様な大粒の涙を、ドラクールは目で追った。
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