潜在意識
「おはよう、ドラクール。」
ベネディクトが朝食を運んで来た。
「昨夜は良く眠れたかしら?」
もちろんこれは、彼の行動に対する皮肉だ。ドラクールが雨の夜に温和しくしている筈がない。
「どうかした?」
いくらドラクールが夜更かしした結果の朝寝を貪っているにしても、さすがにこれだけ声を掛けて身動き一つしなかった事は無い。
言葉は交わさずとも僅かに目を合わせる、というより、睨み付けたりは必ずするのだ。
不審に思ったベネディクトは、ベッドへと歩み寄った。その異変を知った彼女ははっと息を呑み、右手を伸ばして彼に触れた。
「いやだ、凄い熱!」
朦朧とした意識の中でドラクールは、昨夜の自身の行動を悔いていた。
━━二度も沼に入ったからだ。
彼に客観的に意見するならば、恐らく最初に水中に長居したからではなかろうか。
「起きられる?解熱剤よ、飲みなさい。」
歪んだ視界に、気味の悪い塊が映った。薬草だろう。
「…いらない。」
彼は力なく、首を横に振る。その頬は真っ赤に染まり、額には汗が滲んでいた。
「じゃあ聖王に謁見して、療治師を連れて来るわね。」
「止めろ。必要ない。」
乾いた唇から漏れる、幾分かは先程よりは強い調子の声。
「あら。貴方、その年で注射が恐いなんて言わないでよね。」
「ふざける…な…。誰が━━…、」
ドラクールの意識は、言葉の途中で絶えた。
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