重い目蓋をこじ開けると、天井が真っ赤に染められていた。

━━夕焼け。

さぞ外の景色は綺麗なのだろうと、ドラクールは見えぬ風景に思いを馳せる。






「あら、起きたの?」

突然の呼び掛けに、彼は闇色の瞳を剥いて反射的に声の方へそれを向けた。

「もう熱は大丈夫そうね。ああ、良かった。」

安堵から眉を開くベネディクトの金色の髪が、直ぐ目の前で揺れる。

「あ、あんた…っ。な、なに、何して。」

眠りから覚めた時に独りでなかった事や至近距離での彼女とのやり取りに狼狽するドラクールは、舌を噛んでしまった。俯いて痛みを堪える。

「看病よ。」



からん。

ドラクールの耳に氷嚢の中の氷が一つ、溶ける音が響いた。






━━確かに、下がったな。

彼は自身の額に手を当て、熱が下がった事を確認する。

「ところで、療治師は?俺を診せたのか?」

「いいえ。私が解熱剤を突っ込んでやったわ。」

「あんなのをか…。」

感謝など絶対にされる訳がないと分かりきっているベネディクトだが、大きく息を吸い込み、そしてそれを大きく吐いた。

「一言くらいお礼を言ってもバチは当たらないわよ?」

「は?」

すっかり解熱したドラクールは絶好調な様子で、鼻っ柱の強さが全開だ。

「誰も頼んでねェよ。俺はあんた達に生かされてるだけなんだからな。」

「あのねえ、…。」

「俺が死んだら困るから看病してたんだろ?どうしてそんなのに感謝なんかしなきゃなんねェんだよ、そっちが勝手にした事だ。」

今更無駄な抵抗だと知っているベネディクトは、説教は即取り止めた。

「しかし卦体な薬草なんか、無理矢理飲ませんなよな。気味が悪い。」

ドラクールは眉間に皺を寄せ、口に指を入れる。






「大丈夫よ、突っ込んだのは口じゃないわ。肛門だもの。」

瞬時にドラクールの顔から、血の気が失せた。

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