‐追憶‐
闇の密度が濃い、真夜中。
ドラクールはまた同じ夢の中にいた。
いつもと変わらず、幼き日の彼は生臭い空気に包まれて泣いていた。
だが、何かが少し違う。
今まではどんなに目を凝らしても、ひたすらに陰気をぶちまけた様に黒く染まった暗闇が視界を占めているだけだった。
嗚咽を上げながら涙に濡れた瞳を開くと、これまでは只の一度も見る事の叶わなかった景色が見えた。
ぼんやりと浮かび上がる、辺りの風景。
朽ちた瓦礫。
積まれた塵。
崩れた建物。
そして、それらとは対照的に青々とそびえ立つ大木。
彼の意識は、突如として現実に引き戻された。
全身が汗でぐっしょりと濡れている。
未だ荒い呼吸を整えながら、ゆっくりと起き上がって痛む頭を抱えた。
━━思い出した。ああ、そうだ、俺は…。
落ち着かせようとしても、心臓は早鐘の様な鼓動を刻み続けている。
━━あの木…、何の木だったか。確か赤い実をつけてた。
頭痛は更に酷くなり、彼はぎりっと歯を食い縛る。脂汗が一筋、頬をすうっと伝った。
━━あの廃墟。そうだ、あの臭いも。
次から次へと、怒濤の如く過去が蘇る。
━━俺はあの、肥溜めの様な地で生き延びていたんだ。
堪え難い程の激しい頭痛に、彼の意識は再び遠退いて行った。
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