水なんて、蛇口を捻れば当たり前に出て来る物。
その程度の認識しかなく、ドラクールは回答に困った。
「行政が管理してますよね?水道局とか。」
リサは頷く。
「ですからその、行政がないんですよ。摩天城には。」
納得した様に、リサはもう一度首を大きく縦に振った。
制限もなければ庇護もない。一切が自己責任という、無法地帯での『法』。
「申し遅れました、俺はレイブン。一番隊を任されています。」
ドラクールはフードを取り、レイブンと握手を交わした。
「団長はずっとあなたの事を気にかけてました。必ず戻って来る、と。噂話で持ち切りだったんですよ。」
故に最初に声を掛けた少年がやけに怯えていたのだと、彼は知った。
「あなたは目立ち過ぎる、良くも悪くも。」
その一言にドラクールは苦笑するしかなかった。
「資質の差、でしょうね。」
そう言うとレイブンは残りの作業を片付けるべく、火災現場に戻って行った。
「ねえ、本当に王子様じゃないの?」
絶対に問われるだろうと、覚悟はしていた。
「違う。」
彼は虫酸が走る思いで強く否定した。
「だが、王家側の存在である事は否定出来ない。つまり俺は━━、」
リサに罵倒される事を覚悟し、真っ直ぐに彼女を見つめて言葉を続けた。
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