「歴史で習わなかったの!?」
驚きを隠せない様子のリサに続き、
「授業中、居眠りでもしていたんですか?」
青年も笑声でドラクールに問い掛ける。
彼は己を恥じた。
教養も知識もない。
在るのは、深甚なる感情と強硬たる意志のみ。
だがこれまでは、それさえも持ち得なかったのだ。
先頭を歩く青年が一歩足を踏み入れると、溝鼠や油虫(ゴキブリ)が一斉に暗がりへと散った。
「うわ…っ。」
ハクが思わず不快そうな声を上げた。
「下階は環境が良くない代わりに、家賃が安いからね。」
青年は説明をしながらビルとビルの狭間を進む。その一つ一つの通路の名前や番号を教えてくれた。
臭気の為に呼吸もままならず、ドラクールは息を切らしながら全ての階段を上った。
最上階は十七階。
到着した部屋はコンクリートが剥き出しで殺風景だが、確かに日が差していて明るい。
それにゴミやホコリが積もり重なってはいるものの、害虫はいないようだった。
「水は出るけど、飲んだらダメだよ。風呂や洗濯に使いなね。」
奥にある台所の蛇口を捻りながら青年は言った。
「分かりました。でも、この水は何なの?」
「これは海水を簡単に濾過したものだよ。飲み水は地下から汲み上げてるんだ。」
「地下水を蛇口から出る様には出来ないのか?」
ドラクールの質問に、青年は首を横に振った。
「あなたの地域では、どのように水道が整備されていましたか?」
そして、反対に質問を返された。
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