「あら、ルーヴィン!」
中庭に戻った彼を待ち受けていたのは聞き慣れたその、声。
聞き飽きた、と表わす方が本人にとっては正しいかもしれない。
「ベネディクト。」
彼は声の主の名を呟くと、歩み寄って行く。
片刃の剣を腰に下げ、軽装ではあるが甲冑に身を包む長身の女。
「こんな時間に何をしてるんだ?当直にしても、見回りなんぞお前がする必要はないだろうに。」
「蒸すから、ちょっと散歩がてら出て来ただけよ。」
その回答にルーヴィンは溜息を吐くと、懐から煙草を取り出した。
「早く軍営に戻れ。お前は少し書斎の整理でもするべきだ。全くだらしのない。」
「貴方こそ、戻るべきなんじゃないかしら?」
「ああ。そのうちな。」
「相変わらず不道徳な聖職者ね。煙草なんて。」
ベネディクトは悪態をつきながらも隣に寄り添う。
「お前も偉くなったもんだな。私に説教とは。」
しかし彼はそれを避ける様に、中庭の中心の噴水から少し離れた篝火に向かった。
頬にかかる金色の髪を手で除け、煙草に火を付ける。
忽ちに広がる紫煙。
ベネディクトはルーヴィンの背中を見つめていた。
夜風が、二人の間を抜ける。行き先を変えて漂う煙。
「ねえ、兄さん。」
その風に吹かれ流れる彼女の髪色もまた、金色をしている。
「うん?」
ルーヴィンは少しだけ顔を上げ、肩越しに振り向いた。
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W.A