━━嫌な夜だ。



今宵の月は赤い。



血色の紅と闇色の黒は、ルーヴィンに嫌悪感を抱かせるには充分だった。






「お休みなさい。」

ウィトネスを彼女の部屋まで送り届け、彼は背を向けた。

「あ…、あの…っ、国師様!!」

切迫した彼女の様子に、懸念していた物事が現実に起こったのだとルーヴィンは認識せざるを得ない。

重苦しい、彼の心情。

「はい?」

しかし振り返った表情には、微塵もそれを出してはいなかった。

「あ、あのぅ…。」

言葉に詰まる彼女と目線の高さを合わるべく、ルーヴィンは腰を屈めた。

「大丈夫です。」

そしてその柔らかな亜麻色の髪を丁寧に梳き、頬を指で撫で上げる。

「大丈夫。」

繰り返される言葉の意味が理解出来ず、ウィトネスは殊更に戸惑いを隠せない。



ルーヴィンは微笑んで声を低くした。



「守ってやる。何があっても、だ。」






その言葉が終わるか終わらないかの内にウィトネスの意識は突如として失われ、膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。

ルーヴィンは彼女を受け止め、軽々と両手で抱き上げた。彼は寝室へと続く扉を肩で押し開けると、壊れ物を扱う様に静かにベッドへと下ろした。



「お前は何も知らなくていい。」

そう囁くと、再び月影の下へ戻るべく立ち去って行った。

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