いよいよ、巨大な混凝土(コンクリート)の内部に進入する。近付くにつれて正体不明の異臭は酷さを増した。

天井は異常に低く、ドラクールは体を屈めながら歩かねばならなかった。もっとも汚水が上から滴り落ちて来るので、顔を上げる事は出来ないのだが。

それに、昼間だというのに光は殆ど差し込まない。

悪臭が漂う狭く暗い通路を、彼は手探りで進んだ。



何十という路地と何十という階段が複雑に絡み合っている。そんな建物を目の前の男は縦横無尽に進んでいた。

━━方向が全く分からない。

「まるで迷宮だな。」

「だから、余所者の来る場所ではないと言ったんだ。」

ドラクールは納得し、後は黙って歩いた。






「ここだ。」

最上階と思しきその部屋は、少しはまともに感じられた。

「この部屋に、要塞の総指揮官の末裔が…ってオイ!!」

ドラクールは男の話しを最後まで聞かず、無遠慮に扉を開けた。



「ん?」

室内にいたのは体格の良さそうな壮年の男性だった。

「どうした?団長。」

「いや…、その。」

「失礼。」

ドラクールは一歩前に出て膝を折った。姿勢良く脇を締めて両手の拳は真っ直ぐ床に付き、頭を垂れた。

「願い上げに訪(オトナ)った。」

最初は唖然としていた男性だが、ただならぬ雰囲気を感じたのか。

「話しを聞こうか。」

ドラクールを招き入れた。

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