ドラクールは歩きながら綿布を取り出し、鼻と口を覆い隠した。
身元が露見するのを危惧してというより、漂う悪臭に耐え難かったからだ。
地面はぐちゃぐちゃにぬかるんでおり、円滑な歩行は困難だった。注意深く進んだ先に、蹲っている少女がいた。
「水が欲しいのだが。」
彼の声に少女はゆっくりと顔を上げた。
その、痩せこけた身体と虚ろな表情。
一目で、尋常ではない彼女の生活が理解出来た。
「水…?そんなものよりアタシを買ってよ。」
「そんなものと言われても、必要なのは水なんだ。」
「アタシは金が欲しいんだよ。何でもするから。」
会話が全く成り立たない。
ドラクールはカーミラの一言を思い出す。
「ならば、水を売ってくれ。」
「いいよ。」
立ち上がった少女の瞳が、僅かに光った気がした。
「何するんだい?」
「何がだ。」
「水だよ。飲むのかい?」
「そうだ。」
飲用以外に何をするのかと、逆に聞きたくなる。
「じゃあこっちに来な。」
ドラクールは不審に感じながらも少女の後に続いた。
案内されたのは簡素な井戸。
「ほら。」
手渡した水筒に入れられた水は本当に飲めるのかと、彼は訝しげに覗き込んでいた。
目の前の少女はガブガブとそれを飲んでいるので、問題はなさそうだ。
水筒に蓋をして金を払おうとした時、
「そこのお前!何をしている!?」
何処からか大人数の男達が集まり、ドラクールと少女は瞬時に囲まれた。
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