少女は黙ったままで戸口から男を見つめていた。
そして同じ様にやはり言葉もなく歩を進める男。
近付き、より一層少女の風体が明らかになった。
豪華で華奢な刺繍の入った衣服。白地に薄紅と金糸のそれは、彼女の持つ権威を無言のうちに物語っている。
そして細やかな模様の施された装飾品。月明かりの元、腕輪が鋭い輝きを放った。
男は視線を徐々に顔へと上げて行く。
彼の目に留まったものは。
小柄な体躯には似付かわしくない、大きな耳飾り。そしてそれを覆う、少し癖のあるふんわりとした亜麻色の髪。
男との距離が縮まると少女は困却したのか、或いは畏怖したのか。
大きく一礼すると、まるで逃げるかの様に足早にその場から立ち去った。
男は扉に手をかけ、既に小さくなった少女の背中を視線で追っていた。
仄暗い、廊下。
この塔には男しか存在しないからか、広さに伴ってるとは決して言えない数の蝋燭しかない。
━━光が、充分ではなかったから。
心の中で男は言い訳をする。誰に。
一体誰にだろう。
━━まさか、な…。
一人として男の心中は知る術はない。故に言い訳など、他人にも自分にも必要ないもの。
しかし彼は、少女の存在を否定した。
否。
少女と出会った自身
を、否定したのだ。
━━見間違いだろう。
そう結論付けて、男は扉を閉ざした。
堅く。
自身の心を代弁させるかの様に。
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