「な…っ、アンバー!!お前、何を…!?」

店内は騒然となった。男を殴り倒したアンバーの元に、セブンが駆け寄る。

「何事だよ?あんた、大丈夫か?」

セブンは身を屈めて殴られた男の顔を覗き込むと同時に、悲鳴にも近い声で男の名前を叫んだ。

「ド、ドン・パラッツィ!!」

その名を耳にした連中の酔いは一気に覚め、震え上がった。

「やあ、フィータスの。」

パラッツィと呼ばれた男はゆっくりと立ち上がると懐からハンカチを取り出し、鼻血を拭う。

「す、すまねえ!!勘弁してくれ、ドン・パラッツィ!!」

セブンは顔面蒼白で、わなわなと小刻みに唇を震わせていた。

「随分なご挨拶だな、親分。」

「どうか、これで勘弁…、」

床に膝を付き土下座をしようとするセブンの左肩に、アンバーの右手が置かれた。

「何故、お前がそんな事するんだ。謝る必要があるなら、自分でする。」

「い、いや、アンバー!ドンは…!」

「ほう、名前はアンバーと言うのか。」

「ああ。」

「まあ、俺は『そっち』の名前は、良く知らねえがな。」

口角を上げるパラッツィに対して、アンバーはその足元に唾を吐き捨てた。

「忠告してやる。今すぐ、俺の前から消え失せろ。」

琥珀色の瞳から発せられる鋭い気迫に威圧され、パラッツィは息を呑んだ。脂汗がその額に滲む。

「わ、悪かった、そんなに怒らないでくれ。ただ、ここで会ったのも何かの縁だ。是非、君と取り引きがしたい。」

アンバーは眉間に皺を寄せ、怪訝な表情を見せた。

「ボディーガードをしてくれないか?金に糸目は付けん、言い値の倍を出そう。」

パラッツィの言葉に驚き入って目を見開いていたのは、アンバーではなくセブンの方であった。

━━ドンを殴り倒すなんて、殺されても文句は言えねえのに…。それどころか大口の取り引きを持ち掛けて来るなんて、コイツ一体何者なんだ…!?

当人のアンバーは、パラッツィを嘲る様な笑みを浮かべている。

「下らねえ。俺が金に困っているように見えるか?」

「違う、そういう意味じゃない。それだけの価値が君にはあるという事を、言いたかったんだ。」

パラッツィはアンバーの機嫌を損ねまいと、愛想笑いをして見せた。しかしそれは反って、彼の神経を逆撫でしただけだった。

「おめでたい男だな。早く行った方が身の為だぜ、俺は短気なんだよ。」

「待ってくれ!金じゃなければ、何が欲しい?どんなものでも手に入れてやる!」

背を向けるアンバーに対して、それでも尚パラッツィは食い下がる。その執拗な態度に薄茶色の髪を掻き毟りながら大きな溜息を吐くと、こう言った。

「欲しいもの、か。そうだな、じゃあ━━…。」

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