フィータスの現在の所在地は、プエルト南部のとある田舎町である。
「まあ、街っつっても大した事ねえけどな。とりあえず飯でも食うか、何がいい?」
「何でもいい。」
セブンは笑顔でアンバーに話し掛けるが、彼は相変わらず不機嫌そうなままだった。
だが、ふと思い付いたかのようにアンバーはその表情をほんの少しだけ和らげると、こう言った。
「酒がある所にしてくれ。なるべく、流行ってる店な。」
久々の酒に有り付いて盛り上がっている男達とは離れた席で、アンバーは一人で静かにグラスを舐めていた。
━━酒場ならば様々な人間が出入りするからもしやと思ったが…、やはり無理か。
彼は一つの情報を求めていた。しかしこんな田舎町では、到底それは手に入らなそうだった。
「やあ、こんばんは。」
不意に掛けられた声に、アンバーは顔を上げる。
其処には、非常に身形の整った恰幅の良い中年の男が居た。一見して分かる程の上等なスーツや大振りの宝石が散りばめられた指輪は、田舎町の酒場にはとんと場違いだ。
「何だ。」
アンバーは初対面の相手に対して多少の体裁を取り繕おうともせず、仏頂面のまま仰向くとグラスを空にした。
男は店主にお代わりの合図をすると、彼の隣に腰を下ろした。
「一体どうして、君のような名誉ある騎士がこんな所に?」
アンバーの表情が一瞬にして凍り付いた。無意識の内にグラスを握る手にも力が入る。
『騎士』と言う呼称に、彼は不快感と焦燥感を覚えた。
━━まさか…、な。俺の顔など、そうそう滅多に知られてるもんじゃないだろ。
「なあ、レオ━━…、」
男がそう言い掛けた瞬間、アンバーはその顔面に拳を叩き込んだ。
-281-
[←] | [→]
しおりを挟む
目次 表紙
W.A