産院からの帰路。付き添いの女性は後方のアリュミーナを振り返り、声を掛けた。

「どうだった?痛くなかったでしょう?」

「ええ、大丈夫でした。」

アリュミーナは女性に笑顔を向け、そう答えた。

「だって本当に痛いのは、これからだものねえ。」

その言葉にアリュミーナは露骨に顔を引き攣らせる。それを目にした女性は、高らかに笑った。

「私なんか四人も産んでるんだから。大丈夫よ。」

熟達した経産婦である彼女は、人工授精の初回という事で必要以上に恐怖を感じているその胸中を察し、付き添いを申し出たのだった。

「案ずるより産むが易し、って良く言うでしょう?」

「ええ、そうですね…。」

鬱いだ表情でそう言うアリュミーナは、静かに溜息を吐いた。

「でも貴女、破瓜の痛みすら知らないからねえ。」

「何ですか?それ。」

純粋培養そのもののアリュミーナは、不思議そうに首を傾げる。

「えっと…、まあ。とにかく、大丈夫よ。」

女性の作り笑いを、不安を湛えた無垢な翡翠色の瞳が見つめていた。









普段ならばとっくに夢路を辿っている、深夜。

しかしどうにも寝付けず、アリュミーナは溜息ばかり吐いていた。

明日も当然、職務がある。しかし、焦れば焦る程に眠気は遠退き、意識が冴えて行ってしまっていた。



実は先頃、アリュミーナは自身の母親の下を訪ねていた。妊娠や出産についての一番の拠り所が母親であるのは、彼女とて同じである。

しかし突飛な感性を持つ彼女の母親は、とんでもない爆弾を投下した。



『出産?五千の騎兵と戦(ヤ)った時の方が、よっぽど楽だったよ。あんなの、二度と御免だね。』



それからというもの、彼女の脳裏にその言葉がこびりついて離れないのだ。

━━どれだけ痛いのよ…!

母親の言葉に情緒を乱されたアリュミーナは眠れなくなり、ぎゅっと布団を握り締めた。

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